弁政連ニュース
〈座談会〉
今こそ、国会において死刑制度に
関する根本的な議論を!(1/6)
関する根本的な議論を!(1/6)
司会 伊井 和彦 日本弁護士政治連盟 広報委員長
金髙 雅仁 氏
元警察庁長官
岡野 貞彦 氏
元経済同友会事務局長
神津 里季生 氏
元日本労働組合総連合会(連合)会長
笹倉 香奈 氏
甲南大学法学部教授
【伊井】昨年2024年11月13日に、各界の有識者で構成された「日本の死刑制度について考える懇話会」(以下、「懇話会」と呼びます)の報告書が公表され、その委員全員の一致した意見として、『早急に、国会及び内閣の下に死刑制度に関する根本的な検討を任務とする公的な会議体を設置すること』が提言されました。そして、『その会議体においては、現行の死刑制度に関するあらゆる情報を集約しつつ、幅広い視野から制度の問題点の調査を行い、この制度の存廃や改革・改善に関する個別的な検討に基づき、法改正に直結する具体的な結論を提案すべきである。』とされています。
しかしながら、それから1年近くになりますが、そのような死刑制度の検討に関する公的会議体は未だに設置されず、それどころか本年2025年6月27日には、法務省により2年11か月ぶりに死刑の執行がされてしまいました。
このような状況の中で、本日は、「懇話会」に委員として参加された4人の方々に、改めて、「どうして全員一致の意見としてあのような提言がなされたのか」について、いろいろな角度からお話を伺います。
「懇話会」に参加した動機や理由
【伊井】まず、死刑制度については元々「必要である」「やむを得ない」「廃止すべき」等いろいろな意見があると思いますが、皆さんはそれぞれ、元々は死刑制度について、どのように考えておられて、どのような思いで今回の「懇話会」に参加されたのでしょうか。
【岡野】私は現在、経済同友会を離れて別の法人に所属していますが、今日お話しすることはあくまでも私個人のもので、かつてまたは現在所属する法人とは一切かかわりがないことをご承知ください。
懇話会に参加した際は、正直に申し上げて、それまで死刑制度について深く考えたこともなく、知見も持ち合わせておりませんでした。それで、この課題について熟慮するよい機会として本懇話会に参加させて頂きました。
死刑制度を考えるにあたっての個人的な関心は、人権に関する社会の共通認識と死刑制度の関係です。経済団体の役職員の1人として1990 年代から2000年代に多くの国際会議の場に立ち会いました。そこで感じたことは、人権に関する共通認識の国や地域ごとの違いが各国の法制度や社会規範といった制度の成り立ちに大きくかかわっているのではないかという視点です。
人権という観点から死刑問題を眺めると、刑を受ける者の人権と遺族を含む被害者の人権という2つの観点が提起されます。これが国民の8割が死刑やむなしとする世論の背景にあると思います。私自身も、死刑制度があることに疑問を感じたことはありませんでした。
私としては、各国の死刑制度の存廃と人権に関する認識の関係は、どのように見ることができるのか。また、日本の人権に対する社会認識から見て、死刑制度の存廃議論をどのように整理することができるのかといった観点から、考えていきたいと思い参加致しました。
【神津】私も、あくまで個人的見解としてお話しします。
例年、内閣府の世論調査では、「死刑もやむを得ない」と答える者の割合が約8割となっています。正直なところ私自身も、本懇話会に臨む以前の段階では、この約8割の人々と同様の意識にありました。
既に多くの方々から指摘されていることですが、この世論調査の設問内容の非対称性と誘導尋問的性格は、極めて問題であると思います。ただ一方では、この世論調査の結果は、人々の「できることなら死刑制度は無い方が良い」という潜在的な意識も背景としたものであることも見逃されてはならないと思います。本来、「やむを得ない」とはそのような意味で使われる言葉であり、「人が人を殺すという所業は根絶されるか限りなく減じられることが望ましい」という究極の常識がこの8割の人々には保有されているものと考えます。
この懇話会を通じて、私自身がそのような意味での覚醒を経てきたように感じています。

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