弁政連ニュース
〈座談会〉
選択的夫婦別姓制度の導入を!(5/6)
子どもはかわいそうではない
【本多】子どもがかわいそうだという話について、ご意見をお願いしたいです。
【井田】別姓の家庭で育った子どもも非常に多く、座談会を何回かしたことがあります。
周りの子と同じように育っていて、「お父さんとお母さんが生まれ持った氏名なだけで何がかわいそうなのか。理由がよくわからないので説明してほしい」という子どももいました。「両親は、お互いを尊重し合うために事実婚でいざるを得ない。でも法律婚したいと言っているので、もしかわいそうだというのであれば、両親が結婚できるようにしてほしい」というような子どもが多いです。初めから両親の姓が違うものと認識している、それが自然だと思って育った子どもにとって、それ自体は決してかわいそうでも何でもないと。
別姓だとかわいそうというのは、今、夫婦同姓が当たり前だとされる社会だからです。選択肢ができれば別姓も当たり前になるので、決してかわいそうなことではありません。他国ではそれぞれの姓を保ったまま結婚ができる。そういった国々で子どもがかわいそうな社会問題が起きているのか?私は見たことがありませんし、日本でも国際結婚の場合は別姓が基本です。家族の絆は、名字に左右されません。
世論調査でも過半数が賛成と言われる
選択的夫婦別姓実現が進まない理由
【本多】世論調査でも選択的夫婦別姓に賛成が過半数と言われるなか、なぜなかなか進まないのでしょうか。
【野口】反対派のイデオロギーを乗り越えられないからという一点に尽きると思います。安倍元総理が「美しい国へ」という本を書いておられますが、保守派にとっての「美しい国」とは依然として明治時代の社会モデルのようです。異性の夫婦が、同じ氏で、子を持ち、家族を形成し、「国家という大きな家族」の中でピラミッド構造を構成する。そういう「国としての統一性」をもって「美しい」と述べているようです。しかし、個人の尊重を基本原理とする現行憲法、家制度を否定した憲法24条の下では、その構造は許されない。憲法24条が規定された意味を、改めて深く理解する必要があると思います。
合理性の観点からは、この論点については選択的夫婦別姓を導入したほうが合理的に決まっているわけです。同姓を望む方も別姓を望む方もどちらも幸せになれるんですから。最終的なポイントは、そのような「合理的だと分かっている選択を、日本人ができるかどうか」だと思います。社会制度については、必ずしも全て合理的なものが採用されるわけではありません。歴史的・文化的な経緯により、不合理な慣習が残されることもあると思います。それでもこの問題については、氏の問題で結婚できない人たちが現実に多く存在していて、議論は既に尽くされています。残念ながらこの国の民主主義は十分に機能しておらず、だとすれば裁判所で是正するしかないのですが、裁判所も司法消極主義によって仕事をしない。正に「変われない日本」の象徴的な問題だと思いますが、最終的にはやはり国民が自らこの問題の意味をしっかりと理解して自分たちで法改正をする、新しい秩序を自分たちで創ることが重要だと思います。
【井田】2021年の衆院選で、自民党の議員の方々が、選択的夫婦別姓反対等を掲げた神道政治連盟の公約書に署名を求められ、202人現職議員が署名したことを、2023年4月22日、東洋経済が報じました。統一地方選でも同様だったそうです。非常に狭い家族観を強要する政策を、候補者に踏み絵として踏ませていたわけですが、こうしたことが可視化されるようになった。今後も可視化の流れは止まらないと思います。陰で人権をないがしろにするような宗教団体への公約は、今後はあってはならないと思います。
また、自民党は、部会や総務会を全会一致で通さなければ自民党から法案が出せません。そのような場は密室なので、国民は見ることができません。第5次男女共同参画基本計画の議論で選択的夫婦別姓の記載が削られたときのように、なし崩しで旧姓の通称使用拡大になってしまう、というのが一番よくないです。私としては、党議拘束を外しましょう、と。密室の党内議論ではなく、国会という衆人環視の開かれた場で、それぞれの議員が責任を持って、民主主義にのっとって議論していただきたいと思います。
私たちは、当事者団体として、経済界の方々や法曹界の方々、そして本当に心あるいろいろな団体の方々としっかりと手を携えて、「これはもう国会で議論すべきことですから、早期に、来年の通常国会でやっていただきたい。もし党の結論が出ないのであれば党議拘束を外して議論してほしい」という提言をしっかりしていきたいと考えています。
【大山】日本は積み上げの議論をしがちで、多様な価値観を前提に、何か政策を大きく新しい方向に変えていくことがなかなかできない。そうこうしているうちに、社会実態のほうが先行してしまっている、そんな状況にあると思います。同質性の高い社会から、自分と異なる価値観や考え方もリスペクトして、多様性をチカラに成長していくというマインドが重要だと思います。
その前提として、選択肢や権利は保障するけれども、責任をもって自分で選択していく。そんな自立した個人を前提に考えていく時代を迎えていると思います。
【本多】なかなか進んでこなかったわけですが、情勢が変わってきているとも感じます。
【井田】立法府の中で議論が硬直し先に進まない間に、世論は大きく動きました。経済界も、各団体が声明や政府提言を出しています。
また、首長の意識調査が行われていて、集計が今されているそうですが、8割ぐらいの首長が選択的夫婦別姓に賛成しているという調査結果が間もなく公開されると聞いています。
このような状況で何にしがみ付いているのか。海外からさまざま取り入れることは日本の素晴らしい部分だと思います。経済的な指標も落ち込むなか、大山さんがおっしゃるように、多様性を力に変えるときではないでしょうか。あとは国会の中で決めるだけです。期待しています。
【大山】この選択的夫婦別姓の問題は、長年この問題に取り組んでこられた当事者団体の皆さんはもとより、法曹界、労働組合、メディア、地方自治体、そして我々経済界など、多くのステークホルダーが今同じ方向を目指して問題提起しており、かつてない機運の高まりを感じております。
こうした声を受け止め、自民党の中に、ワーキングチームが設置され、先の総裁選でも争点の一つとなり白熱した議論が交わされ、これから議論が本格化していくことを大いに期待しているところです。
同時に、この議論は、法制審議会の答申が出されてから30年近くが過ぎています。議論は尽くしていただきつつも、スピード感も忘れずに取り組んでいただきたいと思っています。
そういった意味では、野心的ではありますが、是非、次期通常国会への法案提出を目指して検討を進めていただき、国会での建設的な議論を通じて、望ましい制度の導入を期待したいです。
また、この問題は、どうしても女性の問題と片付けられがちですが、結婚には相手がいるわけですし、これから結婚というライフイベントを迎えていく若い世代の人たちを含めて、誰でもが当事者になり得る課題なんです。
そういった意味でも、この問題の正しい情報発信が必要で、皆さん一人ひとりが、正しい情報を得て自分事として感じ、考えていただく必要があります。経団連としても、そうした問題意識の下で、色々な形で情報発信を行っていく予定です。
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