弁政連ニュース

〈座談会〉

選択的夫婦別姓制度の導入を!(4/6)

氏名は個人として尊重される礎

【本多】氏について、人権論的な視点から野口さんお話いただけますか。

【野口】著名な判例として、1988年の在日コリアンの方の氏名をNHKが日本語読みした事件の最高裁判決があります。最高裁第3小法廷が「氏名は人が個人として尊重される基礎であって、その個人の人格の象徴」だと明確に述べています。

第1次訴訟の原告に塚本協子さんという方がおられましたが、「私は最期まで塚本協子として生き、塚本協子のままで逝きたい」といつも仰っておられました。そのことを弁護団一同、深く胸に刻んでいるところです。

選択的夫婦別姓と家制度、個人の尊厳

【野口】そのような人格の象徴である氏名、氏を、夫婦の一方が婚姻時に強制的に変更させられる現行制度は、1947年に廃止されたはずの家制度の名残です。個人の尊重に最大限の価値を置く現行憲法の下では到底許容されないはずですが、何故か残ってしまっている。

NHKの朝ドラ「虎に翼」の中で、よねさんというキャラクターが憲法14条について「ずっとこれが欲しかったんだ、私たちは」「これは自分たちの手で手に入れたかったものだ。戦争なんかのおかげじゃなく」と言っていました。この言葉が正に当てはまるのが、家制度の実質的な廃止を意味する選択的夫婦別姓の導入の問題だと思っています。

憲法をめぐる議論というと、どうしても憲法9条の話、戦力を持つのか・持たないのかという話ばかりになりがちですが、より国民生活に直結するのは憲法24条の方です。先の大戦時には、家制度の下、戦争反対と言うと「非国民」と言われました。そのような「全体主義」を廃して「個人主義」を導入したのが憲法24条です。しかし、残念ながら憲法の下位法である民法や戸籍法が夫婦同氏を強制しているために、個人の人格の象徴である氏を夫婦の一方が強制的に変えさせられる現象が起きています。かつ、約95%の夫婦で女性が被害を被っており、両性の本質的平等も侵害されています。この「憲法秩序のねじれ」を、直ちに解消することが必要です。

女性差別撤廃委員会による勧告

【本多】結婚で姓を変える95%以上が女性です。女性の権利や女性差別撤廃、国際人権の視点からはどうでしょうか。

【野口】日本は、1985年に女性差別撤廃条約を批准しました。この条約の16条1 項は、「締約国は、婚姻及び家族関係に係るすべての事項について女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとる」とし、特に確保されるべきものとして同項(g)に、姓を含む夫及び妻の同一の個人的権利を掲げています。

日本政府は、国連女性差別撤廃委員会から、2003年、2009年、2016年の3回、夫婦同氏制度が差別的だとして是正を明示的に求める勧告を受けていますが、日本は未だにそれに対応していません。今年の10月にも女性差別撤廃委員会が日本の女性政策をめぐる対面審査を実施する方針ということで、このままいけば2016年以来8 年ぶりに、改めて選択的夫婦別姓の導入を求める勧告が出されると思います。

【井田】もともと特に手続きをしなければ夫婦別姓という国も多くありますが、国連は、1970年代から、自由権規約や女性差別撤廃条約で、男女に平等な選択肢を保障することを締約国に義務付けており、各国はこれに基づいてどんどん法改正をしました。なぜか本当に日本だけが残っているという状況です。

最後まで残っていたトルコについても、行ったり来たりしながらではありましたが、今年1 月から、裁判所の許可なしに女性が本来の姓の単独使用できるようになりました。今年の審査でも日本に対し勧告が出されるのではないでしょうか。

日本は、国連女性差別撤廃委員会から勧告を受けていた他の家族についての問題、例えば、婚外子の相続分差別や女性の再婚禁止期間の廃止は実現しました。選択的夫婦別姓は、ジェンダー平等のために最低限やらなければならないと考えています。

10月の国連女性差別撤廃委員会の日本審査に、「あすには」からも、グローバルチームからメンバー6名を派遣します。

委員に分かっていただきたいのが、他の国々だと、コモン・ロー・マリッジやPACSなど、さまざまな形のカップルの法的な保障を認めている国々が多く、日本でも事実婚でいいじゃないかという話になりがちですが、日本の事実婚は法的保障に非常に欠けています。男女の法律婚しか選択肢がないなか、女性が結婚で姓を変えた途端に、例えば、夫や夫の家族から「嫁扱い」、夫の家に入った一番下の位の人と扱われることに驚き、ショックを受け、自分の姓を取り戻したいと言う女性が非常に多くいます。ジュネーブに是非この話を持っていってくださいと言うメンバーの体験談を集めました。

ぜひ皆さんに知っていただきたいのは、他の国々でも差別があったけれど解決してきたということ。そして、国が、今、世論調査で意見が分かれていることを言い訳に使っているわけですが、女性差別撤廃委員会は、2009年の勧告で、女性差別撤廃条約に沿うように法整備することが締約国の義務であり世論調査の結果に依存するなと釘を刺しているのです。世論調査がどうこうというのは全く言い訳にはならないということを、ぜひメディアの方にも今一度取り上げていただきたいです。

【大山】日本は、もう少しグローバル目線で物事を見ていくべきです。日本の中では通じる論理も、世界に出れば通用しないことがある現実を踏まえて、制度設計をしていく必要があると思います。

近年、グローバルな経済活動の中で、ビジネスと人権の議論が進化しています。欧米を中心に取り組みが進む中、日本が追い掛けている状況です。通称使用の小さなトラブルやトラブル解決という側面の先にある、大きな、より重要な問題として、まさに人権とか、アイデンティティとか、そういったところをきちんと、数の論理ではなく、たとえ少数であっても人権として尊重していく、制度として担保していくという考え方が重要です。

その際、単に海外の制度と同じにすれば良いということを言っているのではなく、多様性を尊重し、一人ひとりの人生の選択肢を増やす、という根っこにある考え方をグローバルスタンダードにしていくことが必要であると思います。



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