弁政連ニュース
〈座談会〉
選択的夫婦別姓制度の導入を!(2/6)
陳情活動などに取り組む
【本多】井田さんは、選択的夫婦別姓に関してどのような活動をされてきたのでしょうか。
【井田】事実婚の夫が手術を受ける際、病院に「本当のご家族を呼んできてください」と言われてしまい、医療同意ができませんでした。それをきっかけに改姓しましたが、名義変更は2年をかけてもまだ終わらないぐらいたくさんありました。何故この苦労をしなければならないのかと調べたところ、日本以外の国で夫婦同姓を義務付けている国がないことを知り、衝撃を受けました。法改正を申し入れようとお会いした松本文明議員元衆議院議員から、陳情をしなさい、拉致被害者の会の方たちもそうやって声を届けていって政治的なイシューにしたんだから、と言っていただきました。2018年から地方議会での意見書可決の取組を始めました。私たちが取組を始めた時点で可決されていた意見書は約50件でしたが、現在は全国で403件にのぼります。私たちが活動を始めたことで、議案提出してくださる議員が現れたり、見ず知らずの方が同じように陳情してくださったりして、今の403件という積み重ねになっています。
また、各政党に、旧姓使用の困り事、別姓家庭で育った子どもの声を届けるなど、勉強会を多数行っています。早稲田大学棚村教授と共同で、47都道府県の意識調査も行いました。
経済界の協力で「選択的夫婦別姓の早期実現を求めるビジネスリーダー有志の会」で集めた1,046名分の署名を政府に申し入れるという活動もできました。これは大山さんが最初に動いてくださったのが大きいです。
その後、活動を法人化し、広くジェンダー平等を目指して教育研修チームを作ったり、国連女性差別撤廃条約に基づく日本審査に向けてグローバルチーム作ったりしています。
地方での取組み
【本多】佐藤さんも、香川県で陳情活動をされていましたね。
【佐藤】弁護士として十数年、旧姓を使ってきましたが、限界を感じていました。まだ幼稚園生だった娘から「どうしてママは名字を譲ったの?」と聞かれ、説得的な答えが見つかりませんでした。娘に「あなたはもし結婚したら名字をどうしたい?」と尋ねたところ、娘は「今の名字がいい。私の名前には、この名字が合う」と誇らしそうに即答しました。私のときには間に合わなかったけれど、子どもたちのためにも選択的夫婦別姓を実現しなければいけないと思いました。
井田さんたちの陳情活動を知り、香川県で陳情を始めました。2020年の12月、私の住む三豊市で、県内初の選択的夫婦別姓導入を求める意見書が可決されました。香川県では、山下紀子さんをはじめとした「ぼそぼその会」のメンバーが地道に陳情活動を行い、本年3月、県議会を含む県内全ての自治体で意見書が可決されるに至りました。
日弁連の運動
【本多】日弁連のこれまでの運動についてもお願いします。
【佐藤】日弁連は、1993年に「選択的夫婦別氏制導入及び離婚給付制度見直しに関する決議」、1996年に「選択的夫婦別姓制導入等民法改正案の今国会上程を求める会長声明」と「選択的夫婦別姓制導入並びに非嫡出子差別撤廃の民法改正に関する決議」を出しました。2002年、2018年、2021年にも会長声明を出しています。
現在の会長である渕上玲子弁護士が事務総長だった2021年の8月、日弁連は「選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見書」を発出しました。この意見書を携え、同年12月、日弁連理事による国会議員への一斉要請を行いました。
本年、日弁連初の女性会長として渕上玲子弁護士が、選択的夫婦別姓制度の実現を公約に掲げて就任し、6月の日弁連定期総会で「誰もが改姓するかどうかを自ら決定して婚姻できるよう、選択的夫婦別姓制度の導入を求める決議」を採択しました。本年6月にはワーキンググループも設置し、本格的な運動を開始しました。
経団連が選択的夫婦別姓の早期実現を政府に提言
【本多】今年6月10日の、経団連による選択的夫婦別姓早期実現の政府への提言について、大山さん教えていただけますか。
【大山】企業にとって、ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DE・I)はイノベーションの源泉であり、サステナブルな成長に欠かせない要素です。とりわけ人口の半分を占める女性のエンパワーメントに全力で取り組んでいかなければ、価値観が多様化し先行き不透明な時代の中で企業は生き残れない。そういう考え方の下で、各社の努力を加速する活動を進めてきました。一方、各社の努力だけでは解決できない、社会制度として見直しが必要な課題もあり、そのシンボリックな課題の1つとして「選択的夫婦別姓」を取り上げ、一人ひとりの「選択肢」を増やす観点からその必要性を提言しました。
【本多】経団連が、通称使用の拡大ではなく、このたび選択的夫婦別姓を明確に求めた背景はどのようなものでしょうか。
【大山】コロナ禍だった2020年に実施した会員企業アンケートで、女性活躍を阻害する社会制度として、配偶者控除制度の見直しや家事支援税制の導入に加え、現行の夫婦同氏制度の見直しに対する声が寄せられました。これまで個人の問題とされがちだったこの問題について、恐らく初めてに近いかたちで、企業としての問題意識が可視化されました。
それ以前は、政府が「通称利用の拡大」の旗を振り、経済界もその方向で取り組んできましたが、やはり限界がある。今回の6月の提言の際も、会員企業に対するアンケートに加え、各社の女性役員の方々へのアンケートも実施し、現行制度の問題点や通称利用の弊害など、多くの具体的なファクトが寄せられました。
現行民法の規定上は、妻か夫のいずれかの姓を選ぶことも可能ではあるものの、実際は95%の夫婦が夫の姓を選び、妻が姓を改め、改姓による物理的精神的負担が女性に偏っている現実があります。時代とともに変化し多様化していく価値観や考え方、社会実態に合わせて、本人が希望すれば、自らの姓を選択できる制度の実現は、選択肢のある社会にむけたシンボリックな課題といえます。
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