弁政連ニュース
〈座談会〉
今こそ再審法の改正を!(4/6)
あるべき法改正の内容
【秀嶋】日弁連は、2023年の2月に意見書を公表していますけれども、その改正項目の概要を、鴨志田さんからご説明いただけますか。
【鴨志田】証拠開示、手続き規定の不備、再審開始決定に対する検察官の不服申し立ての問題が取り上げられましたが、そもそも、再審制度全体が大正刑訴法時代から変わってないわけですから、オーバーホールが必要です。
日弁連の意見書は先ほどの3つの課題以外にも、再審事由の拡大、公平・公正な審理の制度的担保、証拠開示の前提となる証拠の保管、刑の執行停止など、多岐にわたる改正提言をしています。
【秀嶋】村山さんからは、元裁判官として、改正の優先度が高いと考えておられる項目についてご説明ください。
【村山】今の規定は、本当に数が少なく、しかも再審請求人の再審請求権を実現する方向の規定ではありません。私は手続的な観点から見ると、証拠開示と期日指定の問題が大きいと思っています。証拠開示は、再審請求人の権利実現のための非常に重要な権利だと位置付ける必要があり、やはりこれがないと、「疑わしくても確定判決の利益に」、ということになりかねません。そういう意味で証拠開示の規定を速やかに設けなければいけません。
もう一つ、再審請求が認容されるまでに非常に長い時間を要しています。審理を促進するためには、期日指定をすることが必要です。期日指定がなされれば、審理が計画化し、予測可能性が出てくるので、迅速化に必ずつながります。しかも請求人から見ると、裁判所が何をしているのかわかりますから、請求人側の信頼も高まると思います。現状ですと、裁判官が何をしているのかわからない中で、待たなければならないことが多く、ある日突然、請求を認めないという決定が送られてくることも多いのです。こういうことをなくすためにも期日の指定というのは大事だと思います。
また、再審請求というのは再審公判を行うための前捌き、前段階のものですから、そこでは検察官の不服申立ては必要ない。要するに再審公判で争うことができるわけですから、必要がないと思います。裁判官としては、決定に対して不服申し立てができるというのは、いわば当然でして、それほど違和感はありませんでした。しかし、袴田事件を含め再審開始決定の出た事件のその後の経過や諸外国の法制を勉強する中で、これは禁止すべきだと思うようになりました。検察官は、よほど明白な再審理由が認められない限り、開始決定に抗告しており、その結果えん罪救済がうんと遅れています。現状を見ると、検察官抗告は百害あって一利なしと評価されてもやむを得ないでしょう。
【秀嶋】証拠開示に関しては、どのような証拠開示の仕組みが必要だと思っておられますか。
【村山】請求人側の請求理由との関係で、関連性のあるものは基本的に開示されるべきだと思っています。もちろん一番簡明なのは全面開示なのですが、これは通常審との関係で、そこまでいけるかどうかは相当議論になるでしょう。少なくとも現在通常審で行われているような証拠開示は当然認められるべきですし、再審の場合は罪証隠滅の恐れは、通常審に比べると非常に少なくなっていますから、本来的には証拠開示の幅が広がっても弊害が少ないと思われます。そういった点で、通常審よりも一層広く認められてしかるべきだと思っています。
【秀嶋】柴山議員にお尋ねしますが、議連でのヒアリングを通して、特に改正が必須だと思われている点をご指摘くださいますか。
【柴山】今までお話を伺っていて、やはり痛切に感じるのは、デュープロセスと審理の迅速性ということなんですよ。デュープロセスというのは何かというと、要は検察あるいは弁護人がきちんと主張立証を尽くして、そのうえで裁判所がフェアな決断をしたかどうかということで、お互いがしっかりと徹底的に争ったからこそ、その紛争の蒸し返しというのは基本的にはできないということが正当化されるはずなのに、結局証拠がきちんと開示されずに、相手方、つまり弁護人側に争う機会も保障されていない中で、不十分なかたちで形式的に判決が確定しても、レアケースかもしれないけれども、社会正義のうえから極めて問題のある事例が現にあるわけですから、そういった手続き的正義が果たされていないという事情があれば、それはしっかりと乗り越えて、再審公判の中でお互いがもう一回、主張立証を尽くすという機会を保障するべきだということを一つは言いたいと思います。
それと、さっき申し上げたように、迅速性を損なえば損なうほど、やはり真理の解明は遅れるし、英語で有名な " Justice delayed , justice denied. "ということわざがあるんですね。遅れればやはりジャスティスというものは否定されているということで、期日指定の問題ももちろんそうですし、抗告を積み重ねて審理自体が遅れるというのもそうですけれども、遅れるということ自体が大きな司法にとってのマイナスであると思います。やはり手続きの迅速化ということを、とにかく再審においてもきちんと法律をもって担保していく必要があると考えています。
また、前審に関わった裁判官が、新証拠の明白性について実体的に判断しているのに、そうしたクリティカルな部分について再判断をするというのは、これはやはり私は改めるべきだなと思います。
法改正が遅れている理由
【秀嶋】今日のお話で、これだけ再審手続き見直しの必要性が切実であるにもかかわらず、今まで改正に至らなかったのはなぜでしょうか。
【鴨志田】日弁連が最初に再審法改正に向けて改正要綱案を発表したのは1962年で、60年以上も前から現在に至るまでの間に、昨年の2月に公表したものを除いても4回、日弁連は再審法改正に向けた意見書を世に問うています。
逆に言うと、それだけやっていて改正が実現していないのはなぜだろう、ということです。一つには、マスコミも一般の人たちも「無罪になってよかったね」、で終わっている。再審無罪がゴールになってしまっていて、なぜこのようなえん罪が起きたのかということを検証して、制度の改革につなげるという、当たり前のことがされてこなかったし、それを後押しする世論もあまり大きくならなかった。そうこうするうちに、免田、財田川、松山、島田の死刑4再審事件で相次いで再審無罪が確定した後、その反動のようなかたちで、90年以降、再審開始に至る事件が激減し、日弁連の改正運動も、低調化してしまいました。再審が認められない時代が長引いてしまったために、法改正に労力や関心が向けられなかったことも、原因の一つかもしれません。
【秀嶋】この間、袴田事件がメディアでもかなり大きく報じられ、再審について、具体的な事案として一般の方にもわかるようになってきましたね。柴山議員にお尋ねしたいのですが、国会議員の立場から、法改正が難しかった原因がどのようなところにあったと思われますか。
【柴山】これまでの歴史を見ていると、例えば自白の強要ですとか、証拠開示の不十分とか、通常審における訴訟追行の不十分な時代に、えん罪事件が結構たくさんあって、それを教訓に、通常審の改革が一定程度進んできたと思います。例えば通常審での証拠開示も、特に公判前整理手続においてはまあまあ積極的に行われるようになってきたのかなと思っていますし、弁護人がいろいろと積み重ねてきた努力によって、やはりお互いの主張がきちんと戦わせられるような、そういう裁判になってきたということもプラスの方向に働いてきたのかなと思うんです。ただ、それでもやはり当事者主義構造の中で、これは問題だというものがあるわけですから、その場合における再審の必要性を、袴田事件のような非常にトピカルな案件が出てきたときに、しっかりと政治主導で対応しなければいけないという機運を盛り上げていく必要性があると思っています。
今回の法務省に設けられた検討会の中でも、ともすると垣間見られるのですが、やはり設営者側の法務省や裁判所がいまだに自分たちの立場というか、法的安定性を重視しています。法的安定性は私も必要だと思いますし、理不尽な蒸し返しはやはり避けるべきだと思いますが、それにしても社会的正義の実現という、より高度の目標があるのに、制度設営者側が消極的で、運用さえ改善すれば何とかなるんだっていうことを言っているようですと、これはなかなかハードルが高いと言わざるを得ない。さっき村山さんがおっしゃったように、結局当たりはずれによって、再審格差、社会正義の格差というものが生まれてしまうわけですから、われわれとしては大きなハードルをしっかりと見据えて、それを越えていかなければいけないと感じています。
【秀嶋】村山さんに、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」での議論で、裁判所がどのような対応をされているかについて伺ってもよろしいですか。
【村山】私は在り方協議会のメンバーではないので内容について詳しく承知しておりませんが、最高裁が再審法改正について積極的な発言をしていないことは承知しております。最高裁が統計的にみると、再審請求事件は刑事裁判の中では例外的で、件数もそれほど多くなく、一見して再審の認められる可能性が乏しいと思われる事件も相当数あります。長引いている事件は極めて例外的な場合であり、全体的にみれば現場の裁判官が適切に対応している、最高裁はこのようにと評価しているのかもしれません。
しかし実際は、現場の裁判官が難しい再審事件を担当した場合、条文がないということが大変難しい問題を引き起こします。審理を進めたいと思っても、検察官が証拠開示などに必ずしも協力的ではないということが起きます。えん罪救済という再審制度の趣旨に沿って仕事をするには、それを実現する法律があった方が仕事がしやすい、これは当然のことで、規定があった方がきちんと仕事をしやすいと思っている裁判官は、少なからずいると思います。
場合によっては検察官も、今の若い検察官であれば、裁判員裁判などを体験すれば、証拠開示などにはある程度慣れていて、それほど抵抗はなく、どうして再審事件だとここまで拒否的なのかと思っている検察官もおられるかもしれません。規定があったら解決するのです。
それがそうならない原因は、最終的には時代とか世論だと思います。法務省や最高裁にそういった問題をきちんと認識してもらう、そういう土壌が社会的に醸成されていない。ですから現状の運用で何とかなると言っているのだと思います。ところが現状の運用では何とかなっていないという事実、鴨志田さんに言わせれば立法事実の積み重ねが既に存在している。そういう事実や事件から謙虚に学び、反省して、現場の裁判官がやりやすいようにするためにはどうしたらいいのかを、ぜひ最高裁にも考えてもらいたいと思っていますし、規定を作るのであれば、裁判官がきちんと再審事件に取り組める、実務的も使いやすい規定を作ることに、最高裁も正面から向き合ってほしいと、私は元裁判官として、切に願っています。
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