弁政連ニュース
〈座談会〉
今こそ再審法の改正を!(2/6)
「再審法」とはなにか
【秀嶋】あらためて再審法とはなにかに関して、鴨志田さん、ご説明をお願いします。
【鴨志田】はい。実は「再審法」という名前の法律があるわけではなくて、刑事訴訟法の「第四編 再審」というところに規定されている19の条文のことを指しています。現行刑事訴訟法は、1949年の1月1日に施行されました。戦前の大正時代の刑事訴訟法が今の日本国憲法の理念に合わないということで、人権を保障しながら適正な手続きの下で真実を発見するという観点から、抜本的な改正を迫られたわけです。そこで、日本国憲法の下で、通常一審の手続きまでは大幅に改正されて、「当事者主義」という、被告人にも当事者の地位を与えて、人権を保障するという考え方が導入されたのですが、残念ながら、そのときに、上訴以降の条文については全面的な改正が間に合わなかったという歴史的な経緯があります。
このため、再審の規定は戦前の大正時代の刑事訴訟法の条文がほとんどそのまま今の刑事訴訟法にスライドしてきているのです。審理の進め方も、裁判所の広範な裁量、職権に委ねられていた時代の条文のままということになっています。ここに、この再審法の抱えている根本的な問題があると思います。
通常審と再審の違い
【秀嶋】今、職権主義ということが出てきましたが、村山さん、当事者主義と職権主義について、裁判所、あるいは裁判官の役割、権限がどのように違うかという観点から少し補足いただけますでしょうか。
【村山】まず前提として、判断を示すのは裁判所で、同じです。どこが違うかといいますと、手続、訴訟を進めていく主体は誰かということです。当事者主義は、当事者が進めていくという考え方です。職権主義というのは、裁判所が進めていくという考え方になります。職権主義の下では、裁判所がいわばオールマイティーなのです。進め方も裁判所が決める、結論も裁判所が決めるという形になります。当事者主義の場合は、当事者が申立てをし、相手方が意見を言い、それを聞いて裁判所が当事者に訴訟活動をさせるという形の手続きになります。
再審請求手続きは職権主義だと言われています。確かに手続規定の上ではそのようになっていますが、じゃあ、本当に職権主義なのかというと、実は問題があります。一般に言う職権主義の場合は、裁判官、裁判所が資料を全部見ている場合が多いのです。証拠を全部見て判断する。だから、裁判所に、ある程度信頼して任せるということになるわけですけれども、現在の再審請求の職権主義は、証拠は、確定審の証拠を前提にしますから、これは、当事者主義の下での証拠なのです。裁判官は、証拠のほんの一部しか見ていないのに、オールマイティー的に訴訟進行もやらなくてはいけないというところに、そもそも無理があると考えます。
【秀嶋】柴山議員は、通常審と再審手続きとで、これだけ手続きが違うということに関して、どのように感じられましたでしょうか。
【柴山】やはり根本的には、日本国憲法が求めている当事者の権利の重視という要請が、三審制を経た再審という、プラスアルファの、付け足しのような部分においては、その必要性が立法当事者も含めて、なかなか思いが至っていなかったんじゃないかなと思うんです。
それで、今、村山さんがおっしゃったことですごく象徴的なのは、職権主義と言っても、結局、純粋な職権調査になっていないわけですよね、再審というのは。要は、裁判官の広範な裁量、つまり、やるか・やらないかも含めて、本当に裁判官の胸先三寸で決まっているというところが極めて大きな問題です。社会正義の実現というところから考えれば、こういった本当に付け足しで、物事がいかようにでもなる再審の規定は、対審構造で、精緻なルールを積み上げていく通常審と比較した場合の落差があまりにも大きいということの問題点を、多くのメディアも含めて、社会に訴えていく必要があると考えています。
【秀嶋】法務省などが、再審手続きは非常救済手段なので通常審と違っていいのだという趣旨の発言をされていると思うのですが、どのように反論されますか。
【鴨志田】再審とは、三審制という慎重な手続きの下で一度確定したものを、極めて例外的にひっくり返す手続き、すなわち「非常救済手続」であると言われています。要するに、三審制の外側にある極めて例外的な場面だということを法務省は強調しようとします。しかし、どんなに精緻な手続きであっても、人間が人間を裁く以上、間違いは起こり得る。無実なのに処罰されていいという人間は、日本国憲法が「個人の尊厳」を究極の価値とする以上、あってはならないのです。誤判によって、国家による最大の人権侵害が生じているときに、再審は、これを救済する、唯一にして最終の手段です。だから、例外的だから手続きがスカスカでいいとか、裁判所の裁量に任せておけばいいとかいうのは、誰も納得しない理屈なのではないかと思います。
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