弁政連ニュース
〈座談会〉
日本の災害対策と法制度の課題(5/6)
これから予想される大災害に対して
【津久井】これから起こるであろう南海トラフ巨大地震であるとか、首都直下地震に対して、強い危惧感を持っています。これからの大災害に対して、国の施策として気になる課題があればお願いできますか。
【吉江】地震の連動もあり得るので、首都機能がやられたときに本当に国の動きが止まらずにやっていけるのか、計画がどれだけきちんとできているのか、それらが国民には十分知らされていないことを心配しています。本当に大変なことになる可能性があります。自治体の方と話していると、危機感に濃淡があって、自分が生きているうち、あるいは職員でいるうちは起きないと考えている方は意外に多い。徳島とか高知とかでは、近い時期に来るかもしれないという思いを持ってやれている。しかし岩手は、もうこの間来ちゃったら、この先100年ぐらい来ないという感覚でいる。これではよろしくないのです。そこの思いがずれてしまうと、物事への取組にもずれが生じてくるので、私たちも、議員の方々も、国や自治体の皆さんも、明日起きるかもしれないという共通した気持ちでやっていきたいなと思います。
【永野】首都直下とか南海トラフという桁違いの災害を考えると、今更のようですが、ITの整備や活用が重要だと思います。例えば、先ほど静岡の弁護士会の支援の話を例に出しましたが、南海トラフ地震で桁違いの被害が出たときに、同じような支援ができるわけがないのです。交通を含めて被災者へのアクセスが難しい、マンパワーも圧倒的に足りないという本気の災害のときに何ができるかを考えると、やっぱりIT技術の活用は不可欠だと思っています。例えば被災者に対するオンライン相談の支援などです。交通アクセスの問題やマンパワー不足を解決する1 つの方法になると思います。そのために、最低限のITの通信環境の整備は不可欠ですが、現実にはどこの自治体の通信環境もかなり脆弱だと感じますし、こうした支援者と被災者をオンラインでつないで支援を試みるような訓練もほとんどなされていないと思います。今の自治体側の通信環境とか通信端末の脆弱(ぜいじゃく)さやオンラインを活用した訓練の不足が大災害では支援の可能性を奪い、被災者の再建の希望まで奪っていくという危機感を強く持ちます。国には、また政治家の皆さんには、もっと全国津々浦々の通信体制とか端末の整備にお金を掛けてもらいたいと思うし、それを前提とした、いろんなオンラインを使った支援の訓練をやってもらいたいと思っています。
【渕上】災害復興まちづくり支援機構が、2007年の1月に、東京都と災害復興に関する協定を結びました。これは支援機構という団体ではなく、属している士業団体が個別に作りました。弁護士が、いわゆる自治体と連携するということの一つのあらわれで、私が復興計画の委員をやっていた関係で入手した東京都の復興計画においては、総務局の範疇(はんちゅう)ですが、弁護士、建築士等との相談体制を組むということが明示されています。災害復興計画の中に、弁護士あるいは関連士業の組み入れを、東京都の場合は想定しています。現実には、予算の問題も出てきますので、発災した後に個別契約を各種士業と結んでいくことになると思いますが、大枠では、基本協定に基づいて基本計画の中に、弁護士等については組み込まれているということをご報告させていただきたいと思います。
最後ですが、私が考えておりましたのが、人権課題の一つとして、災害弱者、被災者は全員弱者でもあるのですが、その中でも高齢者・障害者を含め、災害時の要保護者・要支援者という方々に対する取り組みが必要で、その人権をしっかり尊重していくというのが弁護士の役割であるということです。それが先ほどの災害ケースマネジメントともつながっていくと思っています。
【津久井】みなさま、どうもありがとうございました。
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