弁政連ニュース
〈座談会〉
日本の災害対策と法制度の課題(3/6)
災害救助法の改善のあり方
【津久井】次の話題に移ります。災害救助法や、その施行令、規則、弁償基準のどこにも生存権という言葉は出てきません。人権という言葉も一切出てきません。この災害救助法をどうやって改善をしていったらいいでしょうか。
【永野】そもそも災害救助法を被災地域に適用する基準自体に問題があると思っています。いわゆる1号適用など、各自治体の人口規模に応じて何軒家が壊れたら災害救助法をその自治体に適用するというルールがあるのですが、ここに大きな問題があります。災害は別に行政区を刻んで発生してくれるわけではないので、複数の行政区に被害はまたがるわけですね。そうした場合に、ある市町村には災害救助法が適用されて、そこの住民は修理の補助も、仮設住宅も利用できるのに、災害救助法が適用されなかった隣接する市町村の被災者は、同じ災害で同じ被害を受けているのにほとんど何の支援を受けられないということが現に起こっています。同じ災害で同じ被害を受けたら、同じ支援を受けられる制度になればと思います。
【津久井】日弁連では、「同一災害同一支援の原則」とか「同一災害同一救助の原則」という名前を付けていますが、大変シンプルな訴えだと思うのです。
【吉江】災害救助法自体が、もう本当に古いですよね。もともとの成り立ちが、生活保護法の災害版なのです。なので、最低限の生活は何とかさせてあげましょうという中身になっています。今の社会の状況とやっぱり全然合っていない。抜本的な見直しが必要です。その中でも、第一に実現したい点として、災害救助のメニューに相談支援を盛り込んでいくべきだと思っています。担い手をどうするかという問題はあるのですが、やはり相談支援をメニュー化しておかなければ、取りこぼされる人がたくさん出てきてしまうので、やはり国や自治体の責務として、きちんと相談支援が受けられるようにするべきだと思っています。
日弁連は、東日本から10年を迎えての宣言を人権大会で出しましたけれども、その中で、やはり災害というのは人権問題なんだということを強くうたっています。災害救助法だけではなくて、災害対策基本法の中に被災者の尊厳とか人権、そういったものを守るんだということは、生命・財産に並べて、いやそれより上位のものとして掲げるべきです。災害関連の法制がその下に連なっているという形を取らないと、お金と制度と箱作りの話で終わってしまうということになるのかなと思っています。
ほかにも応急修理制度の改善、仮設と応急修理の併給が原則禁止になっているとか、特別基準が役に立っていないとか、トイレ、キッチン、ベッドが避難所にいつまでも整備されないとか、結果的に関連死が生じてしまうということも日弁連として問題視しています。
【津久井】「相談支援」は福祉施策では必須ですからね。災害救助法については、首都直下地震が起きたときはどんな形で問題になるでしょうか。
【渕上】首都直下が起きると、災害救助法の中身自体が飛んでしまうぐらいの大規模な被害が想定されています。基本的に自助努力ということで、行政の手は1週間は市民に届かないとの覚悟を都民に求めています。そのため、今、東京都が一生懸命取り組んでいるのは、事前復興という、いわゆる防災ですね。災害を拡大させないという取り組みと、自助努力を求めるという都民の準備を求めているのかなと思っております。災害救助法上のいわゆる避難所の運営とか、仮設住宅とか、できる範囲で準備を重ねてはおりますが、想定外の被害が予想される中で、災害救助法の枠内で機能し始める時期は、地方より遅れて、その間の自助または共助の部分の機能を高める必要があると思っております。
東日本大震災で、福島の原発の被害者の方たちが東京に避難されたときに、大きな避難所で食事が出せないことから、金券で対応したというケースがあって、これは特別な対応だったと思います。そういう実績がありますので、災害救助法でも、現金給付に近い形で対応することはできるのではないかと思っております。
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