弁政連ニュース

〈座談会〉

日本の災害対策と法制度の課題(1/6)

渕上 玲子 氏

渕上 玲子
日弁連災害復興支援に関する
全国協議会ワーキンググループ

元委員・東京弁護士会

吉江 暢洋 氏

吉江 暢洋
日弁連災害復興支援委員会
委員長・岩手弁護士会

永野 海 氏

永野 海
日弁連災害復興支援委員会
副委員長・静岡県弁護士会

津久井 進 氏

津久井 進
司会
日弁連災害復興支援委員会
委員・兵庫県弁護士会

それぞれの被災者支援活動

【津久井】本日は「日本の災害対策と法制度の課題」をテーマにお集まりをいただきました。私は、進行役の兵庫県弁護士会の修習47期の津久井です。まず、自己紹介をお願いしたいと思います。

【渕上】東京弁護士会35期の渕上玲子でございます。私の災害の関わりは、まず、阪神・淡路大震災のときに、神戸弁護士会の会館の法律相談に参加したのが始まりです。兵庫県の弁護士にアドバイスをいただき、2004年11月に東京における災害復興まちづくり支援機構を立ち上げました。日弁連の現在の委員会の前身となる災害復興支援に関する全国協議会ワーキンググループが発足し、そこにも参加させていただきました。当時、被災者生活再建支援法の支援金が建物の再建に使うことができないという規制があり、これを取り払い、建物の再築にも使えるという法律改正を国会議員に要請し、それが成立して、その後の被災者生活再建支援金に関する活動につながっていきました。

東日本大震災では、電話相談をいち早く東京三弁護士会(以下「東京三会」)で立ち上げ、法テラスと日弁連の支援を受けて運営ができたところです。また岩手の弁護士会が大変ご苦労されているところを、東京三会の弁護士の岩手県沿岸部派遣、あるいは、原発被害者のために相馬や郡山へ東京三会の弁護士派遣など、地元の弁護士会と共に法律相談活動を実施しました。このような活動をしていた関係で、昨年度まで東京都の都市復興関係の委員をしておりました。

東日本大震災のときには、資力を問わない法律相談を行うべく、法テラスの協力を受けながら実施しました。1年かかりましたが、議員立法という形で、法テラス震災特例法につながり、大きな予算が法テラスに入りました。さらに、その後、総合法律支援法の改正の関係で法務省の有識者会議に参加し、発災後1年間は資力を問わない無料法律相談ができるという総合法律支援法の改正に関わりました。

【津久井】続いて、吉江さんお願いします。

【吉江】私は、岩手弁護士会所属、56期です。私の災害への関わりは、東日本大震災からです。東日本が起きたときに、私は執行部の下働きのような立場にいて、現地に行くとか、あるいは盛岡で、裁判所や検察庁、県庁などと話をするとか、いろいろ関わってきまして、その後、副会長になって災害担当を担い、その後もずっと関わってきています。その流れもあって、日弁の災害復興支援委員会に入りましたし、東北弁連の災害委員会立ち上げにも関与しました。

東日本のときは、岩手弁護士会は全然準備をしていなかったので、とにかく目の前のことをどんどんやっていくという状況でした。その中で生まれてきたのが「弁護士会ニュース」です。被災者の方にどうやって情報を届けるのかということで生まれました。当時も、いろいろな工夫をしたつもりですが、それが今、各地でさらに進化しているというのが、素晴らしいところだなと感じています。

その後、2016年に台風10号被害という、気象庁観測史上初めて東北の太平洋側から台風が上陸するという災害が発生しました。岩手県の久慈市、岩泉町というところが大きな被害を受けました。特に岩泉は、山の中で水の被害なんかなさそうな地域でも、土砂災害を含めて多くの被害が起きて、例えば高齢者施設では、建物全体が水で埋まって利用者の方全員が亡くなるとか、道路は土砂で寸断され完全に町と切り離されて孤立した集落や家が複数生まれるとか、大変な状態になりました。そのときに活躍したのが、東日本のときから地元で活動していたNPOです。そういった方々が現地に入って行政を助け、社協を助け活動していた。弁護士会もそういったNPOと連携をして、現地で相談活動をやっていくというかたちを作り始めました。そこで生まれてきたのが、「災害ケースマネジメント」という動きです。官民連携で、お金は官が出し、民間が動き、さらにその中でも法律家の団体とNPOが組んでやっていく、あるいは社会福祉士と弁護士が一緒に相談をする、そういうような仕組み作りをしてきました。これを、この先広げていきたいという思いで、今活動をしているところです。

【津久井】続いて、永野さんお願いします。

【永野】静岡県弁護士会の旧60期です。静岡市清水区で開業しています。

災害との関わりは、東日本大震災の発生した春に、関弁連の派遣で、福島の南相馬の小中学校の避難所を回ったのが最初です。そのときに感じたのは、日ごろ、災害法制になじみがない、ボランティアにも行かないという弁護士が、支援する際の武器やツールがないと思いました。そこで、今日までいろんな支援制度の情報提供ツールを作ってきたというのが現状です。

一番のきっかけは、「岩手弁護士会ニュース」を拝見したときの衝撃です。こんなことを弁護士ってやっていたんだ、やれるんだということが、今のいろんなツールの原点になっていると思います。こういうツールがあったら、自分でも被災地に入れるなとか、相談担当ができるなということを、一人でも多くの弁護士に思ってもらえると一番うれしいです。同時に僕は、東日本の現地支援がきっかけで、時間をつくって一人で東北に足を運ぶようになりました。その中で大川小学校とか、日和幼稚園とか、そういう津波被害のご遺族とずっと交流をさせていただいていて、こういうたくさんの犠牲を、犠牲というだけで終わらせてはいけないなと思って、津波防災の活動をするようになりました。最初は、防災講演という形でいろいろやっていたのですが、それだと、その場限りのものになってしまうので、ちゃんと自分の手とか頭を動かして津波防災、津波避難を感じられるものができないかなと思って、津波避難のゲームを作ったり、あるいは自分で漫画の原画を描いて、主に子どもたち向けですけれども、『みんなの津波避難22のルール』という本を出したり、小中学校で授業をしたりしています。

そんな中で僕がすごく感じているのは、弁護士とか弁護士会というのは、特に周りから見えにくい被害に苦しんでいる人の存在を見つけて、寄り添って、その人が救われるように行動するということが重要なんじゃないかということです。例えば、熱海のときは、土石流ってすごくわかりやすくて、外部からも被害が見えて、共感されて、たくさん義援金もボランティアも集まりました。でも、一昨年の静岡の水害は、1万軒も家が浸水したのに、断水ばかりが注目されて、全然、被災者が浸水後の家でどんな生活をしていることには気付かれなかったのです。僕らが家の中を訪れると、本当に泥だらけの家で、過ごす場所も寝る場所もないから、外に捨てられているこたつみたいなのを二つ拾ってきてつなげて、その上で毎日寝ているというような人がいて、何でこんな暮らしをしている人がいっぱいいるのに誰も気付いてあげないのだろうという怒りとか、いろんな思いが湧いていました。そういう本当に見えにくい浸水被害なんかを把握するには、泥くさいですけれども、一軒一軒の家を訪ねて、中を見せてもらって、家の中で話を聞くしかないと思うのです。だから、これは、政治家の皆さんにも言いたいし、弁護士会とか日弁連、いろんな人に言いたいですけれども、やっぱり浸水被害があった直後に現地にすぐに足を運んで家の中を見てほしい。その目で今何が起こっているかを感じてもらいたいと思います。

【津久井】ありがとうございました。私は、日弁連では、吉江さんの前の委員長を務め、熊本地震やコロナ禍の対応、2020年7 月の豪雨などの支援をしました。多くの議員の方々のご理解を得て制度改善にコミットさせていただきました。活動を通じて感じたのは、災害対策の問題が人権回復の取り組みだという視点が欠落しやすいということです。一般に災害対策というと組織対応だとか危機管理の問題と捉えられ、一人一人の被災者の生活や生命はどうしても二の次になっているところがあります。弁護士としては視点の転換を政治の場に求めたいと思っています。



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