弁政連ニュース

〈座談会〉

SDGsにおける「気候危機」の現状と課題(4/6)

2030年 50%削減に向けてなすべきこと

【小西】政策の側と、企業の側で政策を待たずに動くっていう、二つが必要だと思っています。

政治の主導がやっぱり一番力になります。

一番重要なのは、カーボンプライシングです。日本に早急に強制力を持ったキャップアンドトレード型の排出枠取引制度(二酸化炭素排出量について排出枠を取引する制度のうち、政府が上限を定め、その上限を達成できない企業は、どこかから排出枠を購入しないと制裁措置を受けるという形で、強制的に目標達成に結びつけていくもの)を入れていくことと炭素税を予測可能な形で何年にはいくらっていう形で、きっちり削減量を担保できるシナリオを、科学的分析を基に入れていくということです。

もちろんカーボンプライシングだけじゃなくて、電源の脱炭素化、エネルギーミックスで2030年再エネ36%から38%なんてそんな低い数字を言っている場合ではありません。日本の産業界自体が再エネ50%にしてくれって言ってるんです。なぜならば、「再生可能エネルギー100%の事業経営でなければ、もう投資を引き上げるぞ」と言ってる機関投資家がいるからです。早く再エネの電気に変えたいと思っている企業は沢山あるのに、それが国内で実現できないという状況です。ですので、再エネの比率をもっと野心的に政府が主導して入れていく、といった政策がすごく重要です。電源の脱炭素化した上で、例えば自動車のEV化とかでエネルギーを電気化していけばいい。とにかくポイントは早期の電源の脱炭素化とその他のエネルギーの可能な限りの電化です。

これを主導するのは政府なので、これを是非政策がやらなければならないと思います。

もう一つは企業も政策を待っていると間に合わないので今自ら動いています。例えばあのパリ協定が成立した一番大きな理由が、都市連合とか、企業連合とか、自治体連合とかが、国を超えて、自分たちは政府を超える脱炭素化施策を打っていくというイニシアティブを沢山立ち上げていたことです。RE100って言われる100%再生可能エネルギーで事業活動をやりますっていう企業グループもそうですし、サイエンス・ベースド・ターゲッツ(SBT)って言われるパリ協定の科学に沿った脱炭素化の方針の基に企業活動を約束するというシステムができていて、「SBT認証を取っている日本企業です」と言えば、機関投資家から安心して資金供与してもらえます。そういった国際協定のイニシアティブに、企業自らがどんどん自分から情報を求めて国際イニシアティブに参加しようとしています。そして世界の脱炭素化の動きの少なくとも最先端にいよう、最低限乗り遅れないように努力する、そういう企業の行動というのもすごく重要です。

【小島】確かに企業にとって、ここで乗り遅れたら企業の存続に関わる危険が出てくる。

【小西】そうなんです。以前は「待っていればもしかしたら温暖化対策しなくてもいいかもしれない」と考えていたのかも。だけど、もはや世界は脱炭素化が潮流です。これは揺るがない。もうこれだけ、損失損害が出ている中でさらにまだCO2をたくさん排出します、でも気にしませんっていう企業は必ずボイコットされてしまいます。企業にとっては世界の潮流に沿って脱炭素化していくっていうのは、もうデファクトスタンダード(事実上の標準)です。

【小島】企業のコマーシャルの中に、脱炭素をうたいながら実は脱炭素ではないのではないかというものが時々見られるんですけれども、そういうのについてはどのようにお考えですか。

【小西】はい。今逆に脱炭素するのが当たり前になったので、それを標榜しない企業もいなくなりました。ただ、今度はグリーンウォッシュと言われる、見せかけの環境配慮を主張する企業が日本に限らず世界中にいます。ですので、どれが真の脱炭素化でどれがグリーンウォッシュかっていうことの見極めっていうのが今一番重要になってきています。今まで基準がなかったのですが、国際イニシアティブで今続々と2050年ネットゼロとはどういうものかが出されています。SBTも出しました。2021年、国連のグテーレス事務総長が中心となってイギリスでネットゼロを定義するという専門家会合を立ち上げて、2022年のCOP27で発表しました。例えばネットゼロに向かう途中のトランジション(移行過程)はすぐに脱炭素できないので、2030年半減を目指しますが何をもって本当に半減したのかが、ネットゼロの定義によっておのずと決まってきます。そのいわば国連のお墨付きのネットゼロの定義ができたということは、その定義が必ず機関投資家に参照されることになります。Gfans(Glasgow Financial Alliance for Net Zeroの略称。世界の投資運用会社の連合組織や銀行の連合組織など、個別に発足したカーボンニュートラルを目指す金融関係連合を包括する組織)という、マーク・カーニーなどが中心になって作った世界最大の機関投資家の取り組みも参照していくことになるので、もう全ての企業にとって無視できません。

これの基準がすごく厳しいです。パリ協定に沿った脱炭素の企業の指針となる認証制度SBTとほぼ同じに近いレベルなので、これが国連のお墨付きのものとして決まったのは結構大きなことです。例えば自ら排出削減するよりも安いクレジットを買ってきてオフセットしてネットゼロですみたいなことを言いたい企業は国内外に沢山ありますが、オフセットクレジットは自らの削減目標に使ってはいけないということが明確に入っています。ですので、「オフセットクレジットで、脱炭素しています」と言うことができなくなります。

そういった日本企業にとっては耳の痛いことがいっぱい書かれています。SBTの認証を取っていない企業にとってはかなり厳しい内容で、是非参照するべきです。

【小島】あとは例えばアンモニアだとかCCSだとか水素だとかその辺をすごい近いうちに実現できるように言ってる企業も結構あると思うんですけど、その辺、そもそもそれを実現したからといって本当に脱炭素になるのかどうかっていう問題と、その実現可能性の問題から見るとかなり厳しいところあると思うのですけど。いかがでしょうか?

【小西】はい、アンモニアは基本的に水素と窒素をくっつけたものなので、水素をどこから作るかによってCO2排出削減効果がすごく大きく異なります。今日本がやろうとしているのは、例えばオーストラリアとかで化石燃料由来で作った水素を現地でアンモニアにして船で運んでくるというものなので、削減効果は非常に限定的です。2030年にアンモニア混焼20%やったことによって石炭火力を延命したいっていうのが一番大きな動機かもしれませんが、それが果たしてネットゼロの定義に合うかって言われると疑問です。2030年に半減なのに、20%アンモニアでは不可能です。

【古平】素朴な疑問ですが、ある技術開発のためにCO2を沢山出したり、太陽光発電をするために森林を切り開き相当な設備へのコストがかかったり、設置後も管理ができず瓦礫になり結局森林破壊に繋がったりなど、これらの矛盾点は、化石燃料を用いたいと考える反対派が掲げるだけなのかどうか、いかがお考えですか。



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