弁政連ニュース

〈座談会〉

SDGsにおける「気候危機」の現状と課題(3/6)

欧州各国の政策との対比

【小西】例えばイギリスにいたっては、カーボンバジェット(地球温暖化による2050年の気温上昇を1.5℃に抑えようとした場合、その数値を達成するのにあとどのくらいCO2を排出してよいかという「上限」)を定めています。その量から計算した排出枠をそれぞれ2030年、2040年、2050年ごとに決めていて、そこまでにこれぐらい排出削減しなければならないから、各産業界はこれぐらいやってくださいといった、すごくはっきりしたロードマップを示しています。

日本の場合、2050年ゼロは約束しましたけれども、それをどうやって達成していくかをまだ示していません。ですので、それを政治がきっちりシグナルとして見せる。今一番日本に必要なのはカーボンプライシング(二酸化炭素の排出量に応じて経済的な負担を課していくこと)だと思いますけれども、そのカーボンプライシングすら日本はまだ十分でありません。炭素税をみると、日本は1トンあたり289円です。例えばスウェーデンだったら、もう既に1トンあたり1万円以上の炭素税がかかっています。こうなると企業は当然、炭素を出すことに対する意識が変わります。しかもそれが2035年にはこれぐらいになるってわかっていれば、企業はそっちに向かってきちっと計画立てていきます。だから政治の役割ってすごく重要です。

【小島】どうして日本はそういう政治の役割が進まないんでしょうか。

【小西】それはやっぱり政治だけの責任というよりも、日本国民がそれを望まなかったからじゃないですか。

【小島】ドイツなんか見てると確かに国民の意識がすごく違う感じはしています。

【小西】元々、イギリス、フランス、ドイツはヨーロッパの中でも非常に最先端をいってるところです。もちろんスカンジナビアの国々もそうです。ただスカンジナビアの国々よりもドイツは重工業が強い国なので、日本の参考になります。

それに対し、これまで日本は脱炭素の政策に関しておよび腰でした。

ですので、やっぱり第1は排出削減目標を高く掲げることがすごく重要です。なぜなら排出削減目標を国連に提出した瞬間から、自らそれを実現するための政策を示していかなければいけなくなるので、国内の政策も整えられていきます。しかし、日本は非常に揺れました。もちろん東日本大震災等の影響もありますが、せっかく2009年の段階であの当時としては世界最高の2020年25%削減目標って当時の民主党政権が出しましたが、その後自民党政権に戻ったときに、いきなり今度は3.8%と、目標レベルをすごく下げました。その後に二転して、2030年26%目標、こんな26%削減という、通常の採算ベースでできてしまう、目標と言えないものを掲げた。それを菅前政権が2030年46%に上げて50%を目指すとしました。そういうふうに政治が揺れ動いてきたっていうのが、これまで日本が脱炭素に腰をすえられなかった一番大きな理由だと思います。

【小島】でも考えてみますとですね、日本という国は割と地球温暖化の影響を深刻に受けやすい部分もあると思います。台風とか豪雨災害もありますし、熱中症の被害も結構深刻になっています。日本の人々ってのりを含めて魚介類食べるのが好きですが、実は漁業への影響は大変深刻な状態です。それを見ると、その状態をちゃんと広めていくことができれば、地球温暖化の影響が極めて深刻だということが国民の共通の認識になるような気もしますが、なぜそういうふうにならなかったんでしょうか。

わが国内での議論を高めるには

【小西】その点がアカデミックな議論になりますけれども、その考え方の裏には「危険危機というものが国民によく知らされたら国民は行動するはずだ」という前提があります。だけど、必ずしも行動しません。もう一つは、やっぱり科学の根拠が明確に示せなかったということです。新しいIPCCの第6 次評価報告書によってイベントアトリビューション(ある事象が発生していることに、特定の原因がどの程度関係しているかという分析、ここでは、豪雨の発生や熱波の発生が、どの程度地球温暖化によって生じているかという分析)という新しい科学により、温暖化がなければ、これだけ何%起きなかったと、明確にリンクして言われるようになりましたが、それがよく知られるようになったのはつい今年(2022年)です。科学の発展というのは一朝一夕にはならないということです。例えば台風で千葉で洪水が起きたことがどれぐらい温暖化によるものかということを、これまでは言えませんでした。ですので、温暖化対策をやりたくない人は、科学的に不確かだっていう言い訳をしてました。

【小島】ヨーロッパの先ほど挙げた国々と同じように日本が変わっていくにはどうしたらいいんでしょうか。

【小西】日本の場合は、一番大きなものは国際プレッシャーだと思います。パリ協定というのは、一番の共通基盤です。やっぱり日本もすごく変わりました。なぜ変わったかっていうと、パリ協定ができたことによって、いわば世界の経済の今後が脱炭素化に向かわなければならないということが世界的にコンセンサスとなりました。これにしたがって、特に欧米系の機関投資家は企業に脱炭素化の行動を求めるようになりました。脱炭素の行動に反してると機関投資家が判断したら、彼らはその企業に対してエンゲージメント(機関投資家等が投資先企業や投資を検討している企業に対して行う「建設的な目的をもった対話」のこと)をする。エンゲージメントしても変わらなければ、2年以内に資金を引き上げるぞ、ダイベストメント(既に資金を投入している投資対象から金融資産を引き揚げること)。そこまで踏み込むぐらいのことを、機関投資家集団がパリ協定をきっかけに加速させました。

【小島】なるほど。

【小西】日本では、外資から大きな資金供与を受けている企業が、どんどん変わり始めました。そういう企業はグローバル企業ですから、グローバル企業が動くと、その下には何千とサプライチェーンがあります。

そのグローバル企業が本当に脱炭素2050を目指そうと思うと、全ての関連するサプライチェーンに協力してもらえないとできない、ということで、グローバル企業の下のサプライチェーンも一斉に脱炭素の行動を促されるようになった。それによって、日本全国が本気になったんですね。

ただそれが、2016年とかパリ協定ができて以降なので、それで出遅れたってのはそのためですね。

【小島】今出遅れてはいるんですけれども2030年、50%削減に向けて具体的にどういうことをしていけばいいっていうふうにお考えでしょうか。



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