弁政連ニュース
〈座談会〉
SDGsにおける「気候危機」の現状と課題(2/6)
1.5℃目標達成の課題
【小西】IPCCの1.5℃特別報告書が、2018年に、2050年に世界全体の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするならば、これが達成できるということを初めて明らかにしました。そのために非常に重要なのがまっすぐ2050年に向かって下げていくことです。というのは、CO2は非常に安定したガスなので、1回大気中に排出されると大気中に累積していきます。地球の平均気温は累積量に応じて上がるので、2050年急にゼロにするのでは間にあいません。2030年までに世界全体の排出量をほぼ半分にしなければ、1.5℃達成は非常に難しくなると科学の報告書が言っております。日本も8年後の2030年に46%削減を約束していますけれども、そのレベルは最低限で、それをやらなければ、1.5℃の目標は遠のくことになります。
【古平】危機感がひしひしと伝わってきます。温室効果ガスの問題は、私が子どもだったころから言われているのにまだ解決できていない、小西さんの著書で、それどころか当時開発途上国だった国の排出量がさらに増加していることを拝見したのですが、10年もない短い時間での目標達成について、COP参加の皆さんはどれぐらい現実味を持って考えているのでしょうか。
【小西】COP会議においてこの危機感は世界200か国で共有されています。ただ、問題は「総論賛成各論反対」にあります。すなわち世界全体で1.5℃削減を目指すことはどの国にとっても自国の安全のために達成すべきこととして共通認識になっていますが、どこの国がどの程度やるかという話になると別です。貧困に苦しむ途上国にとっては排出するイコール文化的な生活をすることです。産業革命以来CO2を多く排出してきた先進国の責任じゃないか、だから先進国がより多く削減するべきだ、自分たちはまず文化的な生活ができるようになるまでそちらが優先だということになり、それもすごく当然です。200か国あれば200か国のプライオリティがあります。それは当然のことなので、それを尊重した上で、でも世界全体で半減しなければならない。この調整が難しいことがこれまで交渉が進まなかった一番の要因です。
【小島】結局どこの国も危機感を共有してるんだけれども我が国だけは特別に何とか認めてくれっていう思いが出てしまうということですか。
【小西】認めてくれというよりも、もっと削減しろと言われた先進国は、我々の経済だって今停滞していて苦しいのだから経済を立て直すことなく削減なんてできないと反論します。途上国といってもいろんな立場があって、例えば非常に低開発な途上国とかは、それこそ電気もなく、明日の食料その保障が先だと。だから先進国が支援してくれて初めて我々も削減に参加できる。まず支援ありきで、その後に削減行動となる。今これだけ温暖化の被害が増えてますので、被害に対する救済というものも急務です。パリ協定は削減だけではなくそういう適応(被害発生の度合いを軽くするための措置、救済も含む)も含むものなので、それぞれがそれぞれの一番の国のプライオリティをかけて交渉に臨んでるんです。世界全体で、各国がどれぐらいやるかという着地点に対するコンセンサスは得られてないんですね。
【小島】そうした中で、日本としてどうしたらいいか、小西さんはどのようなご意見ですか。
日本に求められていること
【小西】世界がまず日本に期待することは、先進国であり世界第3位の経済大国ですので、まず排出削減を自ら率先して世界平均よりも上回ってやるべきということです。かつ、日本は技術大国で、当然経済的にも遥かに他の途上国に比べて豊かですので、途上国の削減のみならず適応と損失に対する救済も含めて支援してほしいっていうのが強い要求です。でも日本は、脱炭素化は、ヨーロッパなどに比べて非常に遅れています。最初に覚悟が足りなかった。世界がこれだけ脱炭素化に向かうということに対して、読み誤るというよりは出遅れました。ですので国内においてまだ脱炭素化に向かう政策が十分ではありません。そのために国民の意識も企業の行動変容も遅れた。その遅れた中でパリ協定が決まって機関投資家からのプレッシャーで急速に今変わろうとしている過渡期です。その出遅れ分のキャッチアップで今はまだ既存のものを続けたいという産業界もあれば、いやいやこのままだったら世界の産業界のサプライチェーンから外されてしまうから、早くやらなければという産業界もあって、そこのぶつかり合いで、日本は今、舵取りが難しいという状況だと思います。
【小島】今ヨーロッパの企業などを見ると本当にその脱炭素に向けて前向きに進んでいる。そういう中で脱炭素しないと多分日本の企業も、もう製品を買ってもらえないとかそういう状況が生まれるんじゃないでしょうか。
【小西】はい、もう現実になってます。
【小島】そういう中でいやおうなしに脱炭素へ舵を切らなきゃいけないと思うのですけれども、そのためには国内の例えば電気の供給源が脱炭素化してないとその企業だけの努力だけでは十分いかない部分もありますよね。
【小西】そうですね、もちろん電気の脱炭素化というのも急務です。それを全て演出するのは政策です。ですから政策がきちっと、いつまでに日本は脱炭素化すると決めて、逆算方式でそのために必要な政策を打っていく。それをきちっと入れていくと企業はそれに沿って計画立てられます。
結局企業にとって一番困るのは、予測ができないことです。例えば2035年、日本はどこに向かっているのかが明確に予測可能な形で示されると、例えば炭素税が2030年にトン当たり5000円です、2035年6000円です、2040年には1万円になりますってわかったら、それを払うぐらいならば自ら排出削減する投資をしよう、すなわち10年で投資回収できるようなものにも踏み込めます。結局のところ通常の採算ベースで、企業って3年ぐらい以内で投資回収できるものは、普通にやりますが、10年投資回収というものに踏み込むにはやっぱりすごくシグナルがいります。そのシグナルを政策が出していくということが今一番日本に求められると思います。
【小島】なるほど。その点、ヨーロッパの各国は割と強烈なシグナルがありますよね。
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