弁政連ニュース
特集〈座談会〉
日本における
国際商事仲裁の振興(4/5)
国際商事仲裁の振興(4/5)
【小川】わが国における国際商事仲裁機関は、現状どの程度整備されていますか。
【小原(正)】商事紛争については、日本商事仲裁協会(JCAA)が日本で唯一の代表的な常設の商事仲裁機関です。日本海運集会所という海事事件を主に扱うところもあります。
【小原(淳)】本来仲裁機関と仲裁地は必ずしも結びついていません。日本でもICCの仲裁が行われています。しかし日本で国際仲裁を振興するためには、日本の主な仲裁機関であるJCAAの国際仲裁を振興させることが重要です。
【市毛】佐久間さんはJCAAの元理事でおられますが、日本の国際仲裁が年間20件前後という現状で、日本の企業は、それで満足しているのでしょうか。
【佐久間】先ほど言ったように、契約段階で仲裁地の議論が詰められておらず、日本でならどうかという比較をしない。ただ、日本でやれば大きなメリットがあるわけですから、日本企業としては、現状には全く満足していないと思われます。本来日本で仲裁できる何件かが、シンガポール等に行っているのでしょう。
【小川】余談になるのですけど、自民党の司法制度調査会が本年6月1日に出している提言で「日本国際仲裁センター(仮称)設置を目指す」とあります。これは場所ですか。
【小原(淳)】場所です。いわゆる審問施設。ヒアリングを行う場所で、裁判所で言えば裁判所の法廷のようなものです。
【市毛】日本でICCやAAA仲裁が行われているケースもあるのですか。
【小原(淳)】AAAはわかりませんが、ICCの仲裁は日本国内で行われています。しかし日本を仲裁地とする仲裁は減少傾向で、日本企業が当事者の場合でもシンガポールなど海外を仲裁地とする合意をしていることが多い。私自身の日本を仲裁地とする案件は減っており、ここ数年ゼロです。
【小原(正)】ICCルールで日本仲裁地、手続場所も日本というケースですね。
【小原(淳)】仲裁地はあくまで法律的な概念ではありますが、実際に仲裁手続の中で証拠調べを行うヒアリングは仲裁地で行われることが圧倒的に多いです。日本が仲裁地に選ばれれば、そこにヒアリングを行う施設が必要になります。そのため、日本が仲裁地として選ばれるためには、少なくともヒアリング施設が必要です。さもないと、日本を仲裁地として合意した場合、どこでヒアリングを行うのかという問題がおきます。
【市毛】案件の少なさの他に、現在の日本の国際仲裁の現状は諸外国と比較してどうですか。
【小原(淳)】日本企業が当事者となる案件、日本を仲裁地とする案件が、圧倒的に数が少ないこと自体が現状の問題を表しています。
日本では紛争に対するアプローチが異なります。事を荒立てず当事者間で和解により紛争解決する。最も効率的な紛争解決ではありますが、その手法が国際社会では通用しないことも多いです。現状仲裁経験のある企業は、一部の大手企業に集中しています。しかし、大手企業でもあっても必ずしも仲裁を使いこなせていないと感じることがあります。ましてや中小企業では、仲裁って何?という反応が圧倒的に多く、それが仲裁を避ける一因になっていると思われます。
なぜ日本が仲裁地として選ばれていないのか。やはり日本にはインフラが整っていないからではないでしょうか。ロンドン大学が、数年前に仲裁地選びのポイントに関するアンケートを実施したところ、最多回答は、司法制度が安心できること、十分な仲裁人、仲裁代理人のプールがあることでした。まさに日本の課題だと思います。従って、課題の一つ目は、裁判所に国際仲裁をもっとサポートして欲しい、仲裁をサポートする方針を外に発信して欲しいです。二つ目は、最新の実務を反映した仲裁法がない、仲裁実務の日本語の解説書も限られています。三つ目として、日本の仲裁機関が外国企業に、諸外国の仲裁機関同様に、魅力的に映っているか、という問題があります。仲裁合意の交渉において相手方の外国企業に、JCAAwho? といわれては、そこで交渉は終わります。日本を仲裁地とする国際仲裁の潜在的利用者は半数以上が海外企業であるため、海外向けの情報発信が重要です。例えばシンガポールでは、シンガポールの最高裁長官が、世界中を巡ってシンガポール仲裁を宣伝しました。シンガポール国際仲裁センターも、毎年何回も日本に来て日本の企業ユーザーに対して是非使ってほしいと宣伝しています。
世界レベルの競争なので人的・物的インフラ双方の整備が重要です。仲裁人、仲裁代理人の養成は、日本仲裁人協会や弁護士会にもぜひ頑張っていただきたい、人を育てなければ、いつまでも日本企業に身近な仲裁人・仲裁代理人が現れません。審問施設も重要です。シンガポールは、マックスウェルチェンバーという施設を作ってから、従来の二桁の仲裁案件が三桁になりました。シンガポールの大成功を見て、世界各国で審問施設が雨後の竹の子のように出てきて、ぜひうちの仲裁施設を使ってくださいと宣伝しています。世界の大きな主要都市にはその国の中核となる仲裁機関があり、仲裁拠点として審問施設が整っていることが当たり前になっています。ビジネスを呼び寄せるため、きちんとした紛争解決手続きが確保され、人的物的インフラがある。それが、日本は十分ではないと思います。

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