弁政連ニュース

特集〈座談会〉

日本における
国際商事仲裁の振興(2/5)

【小川】まず、仲裁について概括的にご説明いただけますでしょうか。

【小原(淳)】仲裁は、当事者間の紛争を、裁判所外で私人である仲裁人により法を適用して解決する制度で、仲裁判断には、一定の要件の下判決と同じ効力が与えられます。一般に仲裁というと、喧嘩の仲裁のように当事者の間で紛争を調整をするイメージがありますが、法律上の仲裁は意味が違います。

【市毛】国境を超えた当事者間の紛争解決方法として、仲裁のメリットは何でしょう。

【小原(淳)】公平性、柔軟性、専門性、国際執行力があげられます。

国籍の異なる当事者間の紛争の解決を一方当事者の国の裁判で行うと、他方当事者にフェアでない。国際仲裁のキーは私的自治です。一国の裁判制度を離れ、両当事者に実質的に公平な手続を当事者及び仲裁人で作っていくため、大企業と中小企業の間、文化的・法的な背景が全く違う企業の間でも、双方が満足する手続で紛争解決ができます。フレキシブルな制度が、国際的に活動する企業にとって魅力的な要因だと思います。

更に、紛争の対象となった事業分野の専門家たる仲裁人が判断しますので、結論にサプライズがない。一流の仲裁人が判断する場合、仮に法の適用がその母国の裁判所ほど正確でないにしても、結論においてはずれないという点が国際仲裁に対する信頼感でしょう。

最後に執行力ですが、ニューヨーク条約加盟国156カ国では、一定要件のもと、国際仲裁の判断に基づく執行をしなくてはなりません。外国判決の執行に関する条約が発効しましたが、加盟国が限られ、依然として国際仲裁の執行力は非常に重要です。それによって当事者は仲裁地、執行地を戦略的に選ぶことができます。

私の最初の国際仲裁案件では、国籍の異なる3人の仲裁人が当事者の意見を公平に聴き、短期間で効率的に紛争を解決しました。国際仲裁が法的文化的背景の異なる当事者間の紛争を公平に解決できる素晴らしい制度であることを身を以て学び、依頼者には仲裁の優位性を説いています。

【小川】小川裁判所が国際仲裁に関与するのはどのような場面でしょうか。

【小原(淳)】仲裁判断の取消及び執行、仲裁のための保全処分、仲裁当事者ではない第三者からの証拠収集等を行います。仲裁人は仲裁当事者に対し提出命令を出せますが、第三者が重要な証拠を持っている場合は仲裁人には提出を命令する権限がない、それをサポートするのが裁判所になります。また、仲裁合意があれば、裁判所は訴えを却下します。

【小原(正)】平成16年に施行されたわが国の仲裁法の中にも、裁判所の共助は定められており、小原淳見先生がおっしゃったように、日本を仲裁地にする仲裁合意があれば同法が適用になります。また、仲裁手続を本案として、一般の裁判所の手続により、仮処分ができるなど、裁判所の手続をもっと柔軟かつ能動的に活用することも考えられます。

【市毛】ところで、日本企業は、グローバル市場の中で、技術力や営業力では競争力が高いと評価されていますが、「紛争解決力」、つまり紛争を的確かつ迅速に低コストで解決するスキルをもっているのでしょうか。

【佐久間】日本の企業が紛争解決力で劣っていると感じたことはありません。訴訟や国際仲裁にならず、協議により解決していることが多い。ただ、欧米企業は最初から法曹資格のある人が出てくるのに対し、日方は営業の人間が対応する傾向にあり、そこはやはり若干問題を感じています。日本では、弁護士が企業にとって身近な存在ではない、また、紛争を解決する際、過去は、行政の指導に頼る面があったことも一因かと。更に、アジアでの紛争では、現地部隊が、弁護士ではなく当該地のコンサルタント会社に頼る傾向も問題となります。

ビジネスでは、必ず紛争が起きます。紛争解決力は、グローバル化すれば当然国際競争力に直結します。特にものづくり会社にとって、知的財産、通商問題などは、競争力に直結すると経営者は考えております。

【小原(正)】まず弁護士が身近でないというご指摘については、日弁連として国際紛争分野に限らず様々な施策を講じていますが、さらに努力が必要だと思います。海外進出先で現地コンサルタントに頼ってしまうという問題についても、海外でも日本の弁護士に日本語で相談できるよう、各国の外弁規制のハードルを下げてもらうよう働きかけています。

これだけ日本の企業がグローバルに国際社会で活躍してくると、紛争が起きた場合に国内のように交渉だけで収めるのは非常に難しい、そこで、国際契約の中に紛争解決手段として仲裁の合意があれば、妨訴抗弁により裁判に巻き込まれるのを防ぐことができ、仲裁による解決ができます。仲裁であれば、自分たちが信頼でき、紛争の実態・内容についての専門知識を持っている人を仲裁人に選ぶことができ、非公開で、迅速かつ適正な紛争解決手続が期待できます。

但しこれは、契約書の中に有効な仲裁合意があることが前提です。日本の場合、欧米に比べると、契約書の中に仲裁条項をしっかり入れるということが十分ではない例がよくあります。そうなると仲裁もありえない、裁判しかないことになる。そこは課題だと思います。

【佐久間】確かに弁護士が身近でないと、契約書は営業の人が適当に作ってしまい、仲裁条項が入らない、もしくは基本条件はこちらが圧倒的に有利であるにも関わらず、仲裁合意内容では、仲裁地も他の条件もすべてに相手に有利になっていることがあり得ます。

【小原(正)】日弁連では、地方の中小企業に対して地元の弁護士がサポートできるよう、集中的に研修会を行っています。特に、国際取引に関する法務や国際仲裁に関する研修は、地方都市でもライブの研修会のほか、e-ラーニングやTV中継を利用してやっています。研修の方法や教材も、テキストによる講義だけでなく、実務に即してワークショップ方式を採用するなど、実際に使えるスキルや情報を提供する取り組みを進めています。

【小原(淳)】準拠法の視点も重要です。最近債権法が改正されましたが、日本法を海外のuserに使ってもらうためには、日本の法制度を分かりやすく、バランスのとれた、海外のuserにも使い勝手のよい内容にしたうえで、情報発信することが重要です。外国人の仲裁人に日本法をプレゼンするとき、つくづく日本法の説明は難しいと感じます。また判決の英訳は涙が出るほどつらい。国際社会で日本法が使われるようになれば、日本企業にとりより有利な環境で紛争解決ができるようになります。



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