弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

日弁連の国際戦略 Ⅱ
国際司法支援、国際人権への取組(4/5)

国際人権の取組

【伊藤】ここまで国際司法支援で途上国に対して法の支配をどう根付かせるのかという面で日本が積極的な役割を果たしているお話を伺ってきました。他方で、日本が国際的に誇れる国であるためには、日本国内において法の支配が機能して、国際人権的にしっかりと誇れる状態であることも重要と思います。そこで、大村さん、国際人権的な観点から、日弁連がどのような活動をされているのかという点について、ご説明いただけますでしょうか。

【大村】人権状況について、国際的な監視の仕組みとの関係で説明します。日本が国際人権条約を批准した場合、条約上の基準を満たしているか、政府は報告書を作成します。条約機関、実際には、人権に関する独立した専門家が報告書を審査します。その審査にあたって、日弁連はNGOの一つとしてカウンターレポートを提出しています。 もう一つ大きな仕組みは、2006年の国連総会決議で、人権理事会とともに作られた仕組みなのですけど、普遍的・定期的審査(UPR)があります。これは独立専門家による審査ではなく、国連の加盟国同士が互いに人権状況についてコメントする仕組みで、非常にユニークです。日本は2008年と2012年に審査を受けていまして、今年の秋にも審査が予定されていますので、日弁連も日本の人権状況に関するレポートをすでに提出しました。

【伊藤】日本の法制度への影響について、具体例をご紹介いただけますか。

【大村】条約機関の勧告が日本の法制度に与えた影響について、わかりやすい例で申しますと、2016年民法改正がありました。これは、従来の民法が女性のみ離婚後6 か月間再婚を禁止していたのに対して、その期間を100日に短縮したものですが、長い間、条約機関から条約に違反すると勧告を受けていた分野です。特に国連の女性差別撤廃委員会と、自由権規約委員会から所見が出されていました。

この法改正に条約とか勧告がどのように影響していたかといいますと、2015年12月16日に出された最高裁の判決では、再婚禁止期間が100日以内であれば合憲ということになりますが、法改正では離婚時に妊娠していない女性については100日以内でも再婚できるように最高裁の判断より広げています。また改正法の附則として、「政府は、この法律の施行後三年を目途として、この法律による改正後の規定の施行の状況等を勘案し、再婚禁止に係る制度の在り方について検討を加えるものとする」という一文が入っています。

この訴訟を担当された作花知志弁護士は、最高裁判決では再婚禁止期間が100日以内なら合憲なのに、3 年後には全廃の可能性を含めた見直しが加わったのは、タイミング的には2016年3月に女性差別撤廃委員会の勧告が出たことが影響しているのではないかとおっしゃっています。具体的には、2016年の勧告は、「再婚禁止期間を6か月から100日まで短縮した最高裁判所の判決はなされたが、民法が離婚後の特定の期間において女性にのみ再婚を禁止していることについて、女性差別撤廃委員会による従前の勧告が対応されていないことを残念に思う」と述べた上で、「離婚後女性に対するいかなる待婚期間も廃止することを促す」としました。

他方で、この法改正過程における国会審議の中で、議員の方が国際人権条約や勧告に明示的に言及したことは残念ながらほとんどなかったと指摘されています。せっかく出された勧告を、法務委員会での審議や質問に使っていただきたいと思います。

政治家の関わり

【伊藤】勧告はどのようなプロセスで出るのですか。

【大村】日本政府は、人権状況について条約機関等に対して定期的に報告書を出します。それに対して日弁連などのNGOは、日本政府はこのように答弁しているけど、ここには実際はこういう事実がある、または、法律を適用する上での課題が残っている、法改正や新たな立法が必要等と、問題点を指摘するレポートを出して、これらの情報を合わせて条約機関等に精査してもらうことになっています。

【伊藤】そういうプロセスにおいて政治家が関わることはないのですか。

【大村】本来は政治家が関わっていただくべきところだと思います。

国連人権理事会は、2015年に、UPRのプロセスに国会議員が関与する重要性を指摘した決議を出しました。その中で触れられているのは、勧告が出された国はどうするのか。勧告のフォロー・アップといいますが、例えばある法改正が必要とされる勧告が出たとき、国に持ち帰ってアクションを起こさなければならないところで、一番大きな役割を果たすのは議員なのです。

2012年から2016年に実施されたUPR審査では、各国の政府代表団の10パーセントが最低1 名は国会議員を含んでいたと人権理事会の議論で指摘されています。要するに審査自体にも国会議員が来て、どんな審査が行われているかを現実にご覧になっています。また、UPRでなされる60から70パーセントの勧告は、立法府のアクションを必要としていると指摘されています。

行政府は、審査で日本政府の立場を説明しますが、勧告に対して決める力を持っていないわけです。最後に決める力を持っているのは国会議員です。民主的正統性を持った国会は、法改正が必要か決める力を有しているのです。

特にUPRの場合、国同士で人権状況に関する問題点の指摘、それは、もちろん行政府のあり方も批判されているのですけど、国会も立法の欠如や法改正しないことを批判されているわけですね。勧告というのは、行政のあり方だけではなくて、国には司法権も立法権もあるので、全部のあり方についての勧告だと受け止める必要があるのではと思います。

【伊藤】実際に他の国では人権理事会の審査過程にも国会議員の方が積極的にかかわっているということですね。

【大村】はい。私もUPRと条約機関の審査には2008年に日弁連の派遣団として関わりましたし、2012年はちょうどジュネーブで仕事していた時で、人権理事会に出席したことがありますが、行ってみると日本がどういう風に見られているのか身をもって知ることができるわけですね。日本政府は官僚たちをたくさん連れて代表団を派遣していますが、官僚は決定権がない上にどんどん異動してしまうので、その後持ち帰って何か変えていくことにつながりづらいのです。しかしあの場に議員がいたら、何をすべきかのヒントになるのではと思います。

今後取り組むべき国際人権の課題

【伊藤】先ほど民法改正の話がありましたけど、今後取り組むべき課題としてどのような問題があるのかご紹介いただけますでしょうか。

【大村】最近特に国際社会で大きく取り上げられ、かつ、日本でも対処しなければならない課題として、大村国連でビジネスと人権指導原則が2011年に採択されまして、ビジネスと人権の国別行動計画を策定するためのガイダンスが2016年に公表されました。日本政府も、昨年11月に、国別行動計画を策定していきますと表明しているので、今後の大きな課題になると思います。

それから日本ではLGBT、国連の用語ではSOGI(セクシャルオリエンテーション・ジェンダーアイデンティティ)と言っておりますが、日本には性的指向等に基づく差別を禁止する法律がありません。自治体の同性パートーナーシップ条例や企業のポリシーなどが色々進んでいる分野ではありますが、法律による保障は必要で、当事者の話を伺うと法律が出発点であるとおっしゃっています。

ヘイト・スピーチに関しても、国連の人種差別撤廃委員会から指摘を受けてきたところであります。対処するための法律が成立しましたが、禁止規定がない点等は今後課題になるかと考えます。



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