弁政連ニュース
クローズアップ〈座談会〉
日弁連の国際戦略 Ⅱ
国際司法支援、国際人権への取組(2/5)
国際司法支援、国際人権への取組(2/5)
弁護士の国際司法支援の取組み
【伊藤】まず国際司法支援について、具体的にどのような活動をされているのかをご紹介いただけますか。
【外山】日弁連の行っている国際司法支援は、JICAの専門家として関わる弁護士とは異なり法律を現地で起草するということはあまりなくて、どちらかといえば弁護士制度、あるいは司法アクセスに焦点を置いて支援を行っています。
今まで日弁連が国際司法支援を行ってきた国としては、カンボジア、ラオス、モンゴル、ベトナム、インドネシアなどがあります。
具体的に行っているテーマとしては、カンボジアでは弁護士養成校での弁護士の養成の支援がメインです。2001年ぐらいから始めたのですが、当時カンボジアでは弁護士の養成制度が停止した状態でした。JICAから3年間で1億円という資金をいただいて、現地に弁護士養成校を新たに設立し、その運営の支援をしました。どういったカリキュラムで行えばいいのか、どんな教員をそろえたらいいのか、どんな職員体制で臨めばいいのかなどをアドバイスするとともに、その運営資金も、当時は何もありませんから、JICAからいただいた資金の中で支援しました。我々の支援が終わった後も弁護士養成校は運営されていまして、現在はカンボジアの経済発展があったこともベースになって、学生が納める学費で自立して、弁護士養成が続いています。
ラオスに関しては、JICA・政府からの資金をいただいていなくて、民間の財団である東芝国際交流財団からいただいた資金と、日弁連の特別会計から支出される資金で支援を行っています。したがって予算規模も先ほどのカンボジアの3 年で1 億円と比べると非常に少なくて、年間300万円程度です。最近の支援のテーマは、ラオスに設立されました司法研修所の弁護教官の教授方法に関する支援です。法曹養成の支援という意味では、カンボジアに似たところもありますが、ラオスはカンボジアと異なりまして、日本式の統一司法修習制度を採用しましたので、その中で弁護教官に関する支援を行っています。
モンゴルでは、JICAが調停制度に対する支援を行っていました。そのJICAの支援は終了していますが、その支援を通じて日弁連とモンゴル弁護士会と関係ができたものですから、2013年以降は毎年モンゴル弁護士会に所属する弁護士の約10名が来日し、日弁連で研修を行っています。その渡航費は向こうで持っていますが、講師の費用はこちらが負担しています。
ベトナムは、JICAの資金で支援をやっている点ではカンボジアと似ています。JICAの支援は現地に長期専門家を置いて行う支援がメインですが、日弁連は、2009年以降、JICAから業務委託を受けて、ベトナム弁護士会の会員を毎年1 回日本に招き、研修を行っています。去年あたりから、ベトナム弁護士会が日本の当番弁護士制度に似たような制度を現地に導入したいとおっしゃるようになって、今年はさらに日本の弁護士を現地に講師として派遣してセミナーをやるような支援を考えているところです。
【伊藤】今のお話に出たJICAの長期専門家ということで、磯井さんは実際に現地に行かれて活動されたわけですが、その活動についてご紹介いただけますでしょうか。
【磯井】私は、モンゴルに2 年とカンボジアに1年いた経験があります。
私がモンゴルに行ったときは、調停制度を本格的に導入する前で、モンゴルの弁護士会に対する協力と、現地の弁護士会ADRセンターの支援をしました。オフィスは、モンゴルの法務省の中にあり、モンゴルの弁護士や、法務省や裁判所とやりとりしながら支援をしていました。
モンゴルでは、公的な調停による紛争解決先として最初に弁護士会のADRセンターが設立されたのですが、そこでわずかながら事件を解決したことがきっかけになって、裁判所でも調停をやりたいという話になりました。私の後任の弁護士の方が関与され、今では全国の一審裁判所で調停が行われて、年間で1万件以上利用される状態になっております。
私は、現在はJICAの本部の中で、国際協力専門員というアドバイザーの仕事をしています。JICAでは、日弁連が特にかかわっている国の外にも、アジアを中心にインドネシア、ウズベキスタン、中国、ミャンマー、コートジボワールといったところにも、日弁連に推薦された弁護士を派遣して活動しております。
【伊藤】JICAの国際協力専門員というのは、具体的にはどのようなことをされているのですか。
【磯井】JICAの中で、いろいろな専門分野の人材をアドバイザーとして期間契約で受け入れているのが、国際協力専門員です。JICAの職員は異動もありますし、全員が特定の分野で専門性があるとは限らないわけですけど、国際協力専門員は、そういう人たちのサポートをする役割を果たしています。例えば案件を新しく作るときの留意点、効果を上げるための活動内容などを日常的に職員の方と一緒に検討しています。また、弁護士の外に、法務省や裁判所からも長期専門家を出していただいているわけですが、現地にいるそのような方々と、日々コミュニケーションを取って現地での活動をサポートしています。
日本が国際司法支援をする意義
【伊藤】日本がアジアを中心とした発展途上国に対して国際司法支援をすることの意義に関して、どのようにお考えですか。
【磯井】国際的に、援助する側にいるのは欧米の先進国が多いわけですが、その中で日本は、明治維新の時にフランス、ドイツ、イギリス等の法を学んで、戦後にはアメリカ法の影響も非常に強く受けて、外の法制度を中に取り込んで消化しながら自分たちの制度にした経緯がとてもユニークだと思います。もちろんどの国も外国の影響は受けていますが、日本には劇的な転換点があって、試行錯誤をした百数十年があります。そのうえで成長したアジアのモデルとして、日本の経験を学びたいという声もあります。日本の国際司法支援にはそういう意義があると思います。
他の先進国の支援だと、自分の国の制度をコピーさせる形もありますが、日本の場合は、例えば民法のこの部分はここから学んで、今はこうなっている、という相対的な視点を伝えることができ、相手国の人から非常に参考になるといわれて信頼されていると思います。
【伊藤】外山さんは、どのような点に意義を感じますか。
【外山】磯井さんが言われたことと似たようなことになりますけど、日本は現地の実務を行っている人と話し合いをしながら進めていくというスタンスで支援をしていると思います。それは時として現地の事情に流されてしまうというようなこともありますが、そこはしなやかさというか、一旦は流されたように見えても譲るべきでないところについては、いつかはそちらのほうに持っていくという気概を持ってやっています。
特にアメリカのやり方がそうなのですけど、わかりやすくいうと、ブルドーザーで自分が作りたいところに道路を作って、そこを使いなさいというパターンの支援があります。でも、それは現地の人が望んでいる場所に作られている道路かどうか分かりません。日本は、道路を作ってやったから使えというやり方はせず、極端にいえば、道路を作りに来たのだけど、どうしても作りたくないなら、作りたくなるまで話をしようとやっています。そこが日本のいいところだと思いますし、誇りに思っているところでもあります。
【伊藤】そういう欧米との違いというのは、どこから来るのでしょうか。
【外山】メンタリティの問題でもあるのではないでしょうか。長く付き合っていると、現地の人からも、やっぱり日本人とはメンタリティの面で欧米とは違うと言ってもらえることがあります。肯定的な意味で。
【磯井】今おっしゃったのは押し付けない支援ということだと思いますが、押し付けても根付かない、動かないということを、日本自身も体験的にわかっているからだと思います。特に法律を作る支援は、こちらで草案を作る技術的なお手伝いはしますが、国会を経て法律にするのは相手国がやることです。
【伊藤】そのような支援の中で、現地の人材を育成していくことを重視しているのですか。
【外山】それはしていると思います。
【磯井】他国の支援の中には、特に90年代に、自国法や特定の法律をモデルにして、ほぼそれに近い法案を外国人が書き上げて渡し、そのまま支援を終えてしまう例もありました。しかし、法律が現地の人に十分理解されないと、うまく動かず紙切れになってしまいます。
これに対して、日本の司法支援は、起草支援や制度作りの支援でも、現地の人と議論する中で人材を育て、将来自分たちの力で運用してもらえるようにという方針です。
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