弁政連ニュース

〈座談会〉

地方創生の柱に司法基盤の拡充を
-地方・地域の実践で政府を動かす-

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【斎藤】弁護士が色々なところに入って、市民の立場で法の支配を現実のものにしていくという期待が広まっていると思います。その中で明石市で、裁判所や弁護士会にさらにこうして欲しいと感じるところはありますか。

【泉】ひとことで言うと、行政との連携です。裁判所や弁護士会には、是非とも自治体という行政と連携をしていただきたい。そうすることによって、司法と行政と地域の三者の連携が可能になり、市民のためにできることが一気に増えると思います。自治体が市民のために頑張るのは当然ですが、行政だけでできることは限られています。多様化する市民ニーズに対して、地域の関係団体などと連携しながら何とか対応しているというのが実情です。司法も同じで、司法だけでできることにも、やはり限界があると思います。まずは、司法と行政が連携を始めること、そのことをお願いしたいと思っています。

この点、明石市では、司法と行政と地域の三者に有識者などを加えたネットワーク会議を立ち上げ、成年後見や、養育費・面会交流というテーマについて、定期的な意見交換を続けています。もちろん、弁護士会には参加していただいていますが、特徴的なのは、裁判所にもオブザーバーとして加わっていただいているところです。家庭裁判所の書記官や調査官などにも明石市役所の会議室にお越しいただき、司法と行政との連携のあり方などについて協議を重ねています。ネットワーク会議の他のメンバーとしては、法テラスや公証役場といった公的機関、医師会、司法書士会、社会福祉士会、臨床心理士会といった専門職団体、民生児童委員協議会や社会福祉協議会といった地域の方々、それにNPOや市民団体などです。関係機関が連携して、市民のためにチームとして一緒に取り組んでいきましょうとの思いで続けています。

【斎藤】明石市は先進的な取り組みをしていて、それをさらに発展させて将来的な展望を開いていく段階にあると思いますけど、弁護士・弁護士会や家庭裁判所との具体的連携を紹介してください。

【泉】いろいろありますが、まず最初にしたことは、市役所の市民相談のパンフレットを裁判所のロビーに置いていただき、裁判所の各種パンフレットを市役所のロビーに置かせていただくことでした。

それが連携のスタートでした。市役所の市民相談窓口には、裁判所の申立書式なども常備しており、裁判所の手続などについてもアドバイスしています。また最近とりわけ力を入れているのは、離婚と子どもに関するテーマについてです。養育費や面会交流の取り決めを促す参考書式を市役所の窓口で配布したり、面会交流の実施場所として明石市の公共施設を無料提供したりもしています。調停成立後の養育費の履行確保などについては、市役所内の法テラスが弁護士を紹介したりもしています。

この連携の面でも、自治体弁護士が大きな役割を果たしており、弁護士の採用は、自治体にとって、コスト・リーズナブルな選択だとあらためて感じています。

【北川】これは今貴重なこと言われましたけど、弁護士さんを任期付きでも採用したいという自治体は結構ある。まずいくらかかるかいう不安がある。

びっくりするほどの高額ではなしに、専門手当てはあったとしてもリーズナブルなものという現実がものすごく大きな影響を与えることを弁護士会のみなさまにご理解いただいて現実に回していくことが重要です。もう一つ、役所が心配することは本当に弁護士が来てくれるかということです。泉さんは採用の方法も色々な手を考えられてやられている。入口の自治体に行けることと、任期付きで5年努力された人が戻られたときの出口のお世話のシステムを確立しないと地方創生時代の法の支配は行き届かない。

【斎藤】法の支配を確立するために行政、弁護士や他の団体が連携する上でも、裁判所が近くになければという問題もあって、インフラとして裁判所の充実が今日の大きなテーマです。

【泉】市民に身近な司法の実現は、司法改革の理念でもあり、とても重要なポイントです。ただ、裁判所の数や裁判官の数そのものを増やさなくても、できることもあるはずで、そこで、明石市では、法テラスという司法拠点を市役所の中に誘致することにしたわけです。市民にも好評で、法律相談の件数も大幅に増えています。

また、自治体弁護士の採用も、身近な司法に向けての取り組みの一つです。司法の実質的な機能の面に着目して、市民のための司法を実現していくことも大切だと思っています。

【藤田】おっしゃるとお藤田氏りだと思います。この5 、6年、私たちを取り巻く自治体、行政の皆さんのスタンスが明らかに変わってきています。新潟県柏崎市の市長さんとお会いする機会がありまして、管内人口9万人、ここに法律事務所がない、近接の支部まで30km離れている、若い弁護士一人、二人いていいよねと。それに行政も相談したいことがあるというのです。財政支援するから元気のいい若い弁護士を紹介してくれないかという話がありました。

結果的に、市の財政支援と日弁連の財政支援で法律事務所が開設されました。糸魚川市も同じです。新潟県は非常に過疎地のエリアが広いわけです。町村合併で前の町役場の施設が空いているから、そこを法律相談所の場所として一週間に二日とか弁護士を派遣して相談を受けている。弁護士会が、お品書きをもって弁護士はこんなことができますよと示しながらアウトリーチしているわけです。

今日は、北川先生と泉市長のお話を聞いて、同じような感覚をお持ちだなと思いました。地方にいる弁護士が何をしなければならないのかということは勉強になります。


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