弁政連ニュース

〈座談会〉

地方創生の柱に司法基盤の拡充を
-地方・地域の実践で政府を動かす-

(3/6)

【斎藤】藤田さんが地域司法の充実の問題にかかわったきっかけは。

【藤田】私も平成2 年に新潟県弁護士会の副会長をやっていた時に関弁連管内は11カ所の支部が統廃合され、その内、県内4支部が対象になりました。平成19年に弁護士会の会長のとき統廃合された4支部を何とか復活させようと考えましたが、あまりにもハードルが高い。そこで、4つの統廃合されたところの家庭裁判所の出張所での調停とか審判の実現というのは我々の運動で手が届きそうで、市民の要望にこたえる改善策だと思い、ここ数年来取り組んでいます。

地方に行けばいくほど地域司法の基盤整備がおざなりにされていると感じています。裁判所が本気になれば家裁の出張所でも調停等ができるはずです。

関弁連として、東京地家裁立川支部の本庁化、千葉家裁市川出張所での地家裁支部の新設、横浜地裁相模原支部での合議制の実現や支部での労働審判の実現等を最重要課題として取り組んでいます。

【斎藤】家庭裁判所の出張所で調停ができないで困っている事例をお話し下さい。

【藤田】統廃合される前の支部であればお年寄りであっても自分の町にある裁判所という感じでした。

それがなくなったものですから高速を使っても一時間半とか、冬場では3時間かけて近接の支部に行かなければならない。お年寄りやお子さんを抱えている母親にとっては一日掛けて裁判所に行くなんてまず不可能だと思います。遺産分割で、相続人が非常に高齢化しておりますので、そんな遠いところまで行くのか、何で地元の裁判所で遺産の調停ができないのって言われて、ここは受付だけなんですよと説明しているうちに、おじいちゃんが亡くなり、数年たって、おばあちゃんと長男が亡くなったり、相続人がとんでもない数になったというケースがありました。成年後見の申立てでも、前の支部があったところなら市役所の職員とご本人が10分で行けた。ところが裁判所が40km離れていては本人を連れて行くのが大変で、ようやく本人を説得して車に乗って高速に入ったら、そのお年寄りが高速道路なんか10年乗ったことが無いし、気分が悪くなったから下ろしてくれと戻ったこともあります。

身近に家庭裁判所がないと、団塊の世代が年を取っていくにつれて司法は役に立たないという市民の意識がさらに強くなるのではないかという危惧を抱いています。

【斎藤】北川さんは、どうお思いでしょう。

【北川】今までのお話を北川氏聞きましても、成長社会で経済一辺倒で来られた時代があって、その時の予算とか富の分配で、公共は成り立っていたと思っています。ただ成熟社会になりまして、多様な社会をということで集権から分権に変わった。

分権は権限を分けてもらうという消極的な言葉だと思います。これが本年、地方創生関連ということで創生時代にいよいよ入ってきた。分権法ができて20年経つのですが、形式は整いつつあるですが、実質的な住民自治が取られていないと思いますね。だから今のお二人のお話でも住民自治が不十分ではないかという問題提起がされている。全く同じ認識で、公共事業というのはハードを整備するのも公共事業ですけど、法の支配が行き届いていないところに本当の法の支配、公共の支配を行き渡らせるのはソフトの面で頑張っていかなければならないという思いが非常に強いわけです。地方が自立し自己の責任で決定するとした場合、何を基準にするかというと法以外は無いわけです。ところが集権時代は国に依存して、慣行とか慣習で権力の側で決めてきた。

それを法に基づいて客観的に決めるという文化が全国にいきわたらない限り地方創生は完結しないのだろうということです。

国会議員とか知事を務め、日弁連の市民会議の議長などもやらせていただいていますが、従来弁護士さんと行政の世界は、対立的なまことに不幸な関係が続いてきた。私は、情報公開時代において公権力は住民の為にパラダイムを転換して、専門職が本当に機能するようにしていかなければならないと主張してきました。しかし、リストラでどんどん自治体の職員は削られていく。一方、団体自治で市役所にはどんどん仕事が降りてくる。そうすると一人で三役、四役もやるということになりますと、先ほども言った公金回収とか難儀な問題は先送りされて社会の公平性を欠いている、これは誰かが結びつける役目をしないといけない。山岸会長の時に活動領域拡大の日弁連宣言がなされたというのは、私は画期的なことだと思った。

私が今担当している地方公共サービスの公金回収の問題は、全国三か所か四か所で、弁護士と行政と法務省がバックアップして勉強会を開いて大盛況です。私はそういうことができる土壌が弁護士さんの努力でできてきたと思っている。また、任期付きで採用された弁護士さんが地方公務員にはいなかったのですが、現在85名になっていると思います。行政分野を開拓した人たちが出始めて、ビジネスとして成功すると、法の支配は自動的に行き届く。理論は分かったからやるかやらないかの決断だけではないかという後押しをさせていただくのが、私の仕事かなと思います。例えば、対処療法ではなく予防政策として、弁護士が役所の中でご教授いただくあるいは窓口業務を担当いただく。あるいは契約のことについてやっていただく。市長さんや県知事さんも食わず嫌いの所がありますが、最近の弁護士の努力の結果、やっぱりいいよねという大きな動きが出てきて、私どものところでも現在数名何とか弁護士さん紹介してよとなっています。


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