弁政連ニュース

〈座談会〉

地方創生の柱に司法基盤の拡充を
-地方・地域の実践で政府を動かす-

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【斎藤】それでは、現在の課題に取り組むことになったきっかけを、順次お話し下さい。

【泉】弁護士の自治体職員としての採用には、もちろん理由があります。

①市民の側の法的ニーズの高まりと、②職員の側の法的ニーズの高まり、そして、③自治体経営上の法的ニーズの高まりなどが理由です。

まず、①市民の側の法的ニーズの高まりについてですが、「法は家庭に入らず」の考えでは、子どもや高齢者を守りきれなくなってきたことが背景事情としては大きいです。児童虐待や介護放棄などの問題もあり、家族に任せておくだけでは不十分で、地方自治体が積極的に本人を法的に支援していく時代が始まったのだと思っています。

次に、②職員の側の法的ニーズの高まりについてですが、最近の地方分権の進展によって、自治体職員にも、法的な自己決定・自己責任が求められようになりました。

そして、③自治体経営上の法的ニーズの高まりについてですが、コンプライアンスの確保や、政策法務を担える人材の育成など、弁護士が活躍できる分野も増えてきました。

明石市としては、それらのニーズに応えるべく、弁護士を積極的に採用しているわけです。

【斎藤】具体的な取り組みの中身についても、お話いただけますか。

【泉】まず、市民ニーズへの対応についてですが、市民相談の充実化には特に力を入れています。

その際、①アウトリーチ、②チームアプローチ、③ワンストップという3つのキーワードを意識しています。アウトリーチの取り組みとしては、自宅への訪問相談を3年前から始めています。高齢者や障害者などで市役所まで来ることが困難な方については、電話1本いただくだけで、弁護士職員が本人の自宅や病院の枕元にまで出向いていって法律相談に応じるというものです。当然のことながら大変好評です。チームアプローチの取り組みとしては、総合相談窓口を2年前に開設しています。いじめや体罰などの相談については、弁護士職員が法律相談に応じるだけではなく、社会福祉士職員や臨床心理士職員とチームを組んで、福祉や心のケアを含めた総合的なサポートとなるように心がけています。ワンストップを目指した取り組みとしては、「法テラス明石市役所内窓口」を昨年5月から市役所本庁舎の市民相談室の中に開設しています。法テラスのスタッフが常駐しているので、市民からすれば、市役所に行きさえすれば弁護士を紹介してもらえるというイメージのようで、身近な法テラスとして親しまれています。

次に、職員ニーズへの対応についてですが、一般職員が業務執行などに関して、いつでも気軽に弁護士職員に法律相談できる泉氏環境をつくっています。

昨年1年間に職員から寄せられた法律相談の件数は723件で、私が市長に就任するまでの年間20件弱とは大違いです。法的に安心して職務を遂行できるようになったと職員には大変喜ばれています。

そして、自治体の政策ニーズへの対応についてですが、明石市では、犯罪被害者への立替金制度の創設や、離婚後の養育費や面会交流に関する支援策の実施など、全国初の施策を順次具体化していっていますが、その施策を担っているのは、まさに弁護士職員です。

【斎藤】石曾根さん、取り組みのきっかけと現時点での到達点をどうぞ。

【石曾根】私が支部問題に取り組んだきっかけは、支部の統廃合の問題。昭和63年に最高裁が持ち出したものですが、同年に松本在住幹事をやり、平成元年に弁護士会の副会長になって支部の統廃合に関する反対活動に没頭いたしました。結果として、三支部とも統廃合されてしまった。官が地域を見捨てるのであれば、地域を救済するのは弁護士であり、弁護士会であるという思いで、支部問題にそれから取り掛かることになったのですけど、母親の介護で10年ほど会務から遠ざかりました。平成13年ごろから会務に復帰して平成19年に県の弁護士会の会長になりました。

公約として、長野県の地域司法計画をもう一度見直して作り直す運動をおこすと共に、家庭裁判所委員会で支部の問題について市民委員の方々に色々と説明をして問題提起をいたしました。しかし中々動こうとしない。長野県は全国7番目に労働局のあっせん件数が多いのですが、労働審判というのは本庁でないとできない。長野県は南北に長い、全国で4番に広い地域です。何とかせめて松本で労働審判ができればいいなということで、支部での労働審判実施の必要性を県議会はもちろん、中南信の全市町村に陳情しまして、決議され最高裁の方に提出されています。また商工会の団体からも支部での労働審判実施を要請してもらいました。また、支部充実のための司法の基盤整備、裁判官や検察官の増員を各自治体の決議に加えていただきました。現在行われている日弁連と最高裁との協議の中で松本支部での労働審判の開設が実現してほしいと思っているところです。

【斎藤】労働審判を松本で実施していないことによる具体的な弊害をお聞かせください。

【石曾根】労働局のあっせん委員をやっておりまして、そのあっせんの件数が平成22年の後半から極端に多くなり、労働局に週3から4回くらい通わないと処理できないくらいになりました。労働者、経営者の声を聴くにつれて、労働審判に持って行った方がより良い解決になると思った事案がたくさんあります。しかし伊那とか飯田の人はもちろん松本でさえも、長野までは遠いので行けません、そういう声が多かった。労働者も経営者もやむなくあっせんでの解決を諦めて、労働審判の申し立てもしない。そういった事態が目についていた。どうにかしないといけないという思いで運動をしたわけです。

例えば飯田からですと、長野本庁まで片道5時間、長野まで通うということは無理です。木曽の岐阜県境からしても片道3 時間以上かかる。それを軽減するには松本支部での労働審判がぜひ必要だという思いです。


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