弁政連ニュース

〈座談会〉

被災地の声を国会に
~弁護士による政策提言~

(5/6)

【岡本】私も同感です。では、これからの取組みについてなのですが、どのような対策を取ってくべきだと思いますか。

【杉岡】今回の反省を踏まえた制度を今のうちから作っておかないとと思います。というのも、ガイドラインが利用しやすい形に固まる前に金融機関のリスケジュールが進んでしまっているのです。23年の8月にガイドラインの適用が始まったのですが、23年9月にはすでに住宅ローンの支払猶予案件をリスケジュール済み案件が上回っていたんです。被災地の先生方と日弁連の申し入れで、24年7月に金融庁が各金融機関に対してこの制度の利用を促進する通知を出して、そこから金融機関の態度もガラっと変わってきたんですけど、24年7月の段階ではリスケジュール済みの案件が6, 143件、支払猶予中が619件。ほぼ終わっている状況だったんですよ。今回の金融機関のリスケジュールの動きがこれだけ早かったことを踏まえると、ある程度の枠組みを平常時に作っておいて、災害の規模によってちょっとした修正を加えて成立できるような制度を今のうちから考えておかないと絶対に間に合わないと思います。立法化に向けた動きをするべきですね。

【小口】ガイドラインは失敗だったと言わざるを得ません。失敗した結果はこれから出てくると思うんですけど、住宅を再建したいと思って高台移転を希望していた方が、どんどん「ローンを組めない」や「お金がない」という理由で災害公営住宅に流れていく。これが二重ローン問題を解決できなかった結果なんです。この後起きることは既存のローンの返済ができない人も増えてくるので、数年後には破産者が増えてくる。そういうことを二度と繰り返さないためにはどうするかというとやはり立法しかないんです。東日本大震災の時にあの地で1万件の話し合いの和解を成立させろというのはそもそも無理があったんです。1万件もあるんですから明確なルールや法律でスパッと決めてもらわないと、人手不足なのに話し合いで言われても困りますよね。そこで被災地の復興のパワーを割くわけにはいきませんので立法しかない。立法さえしっかりしておけば周知が行き届かないで返済を受けた期間があったとしても破産法の否認のように巻き戻しをすることができるでしょう。逆にそういうペナルティを作っておけばより周知が広がると思うんですよ。日本は地震大国で住宅ローンだらけなんですから、二重ローン問題は間違いなく将来起こる起きる大問題なんです。今のうちに立法化しておくのは国会の責務だと思いますし、そのためなら我々はいくらでも知恵を出しますのでぜひやっていただきたいと思います。

【岡本】今までお三方に当時の政策を実現する過程や生の声を聞いてきた現状を教えていただきました。中には成功して被災地の復興に資する法改正があった一方、必ずしもそうではない面もあったかと思います。いずれも弁護士が気付いた問題点を国会や政府に届けられたことは一つの成果でした。

【小口】その時に非常に有効だったと思うのは、当時私たちが避難所で必死になって書いていた相談票を集計して使ってもらえたこと。これがすごく大きかったんだろうなと思います。当時岩手弁護士会でも紙が積み上げられるだけで何もしていなかったんですけど、あれを集計したものが実は立法化に有効なものだと思います。あれを使おうと思ったのは岡本先生だったと聞いたのですが。

【岡本】私は震災当時に日弁連の委員ではなく内閣府にいました。どうやったら政策ができるのかという過程を目の前で見ていたんです。やはり当たり前なのですが立法事実とデータが重要なんです。実際の生の事実とそれを裏付ける数字がないと官僚はうんと言わないし、マスコミも記事に取り上げてくれないし国会でも議論しにくい。今までそういった過程をずっと見ていましたので震災の時こそデータや数字が大切だと思いました。当時は二重ローン問題が一番問題になっていましたが、本当に二重ローン問題で困っている人はどれくらいいるんだろうということで国会議員の先生や政府に聞かれるときに答えられなかったんです。それで先ほど杉岡先生がお話されたGWの相談を岡本九百何十件データ化するという話を聞き「これだ!」と思いました。このデータをいち早く国会や政府に届けられれば良い反応を得られるんじゃないかということで分析をすると、相談者のうち18%もの方がローンの話をしていることがわかりました。しかも金額のデータもあり、100人の母数の中で1,000万円以上の方が6割もいました。この数字は記事にしやすく、日弁連の公式見解の前に速報性のあるニュースになったという事実があります。もう一つ、相続放棄の熟慮期間の延長問題でも有効でした。どれだけ相続の話が多いかを数字で見せようと考えました。岩手県だけでも3月で7%くらいの方がご相談されていたんですね。ただ4月だと16%、5月には23%、6月には43%の方が相談されています。43%の数字が出る前に法改正してくれてよかったんですけど、本当にギリギリの話だったと思います。住民の皆さんの声をどうやって数字とデータで届けていくのか、というのが政策提言の中では重要だったなと思いました。


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