弁政連ニュース
〈座談会〉
被災地の声を国会に
~弁護士による政策提言~(4/6)
~弁護士による政策提言~
(4/6)
【岡本】引き続き二重ローンの問題について杉岡先生からお話を頂きたいと思います。
【杉岡】二重ローン問題については今さら説明不要かなと思いつつごく簡単に説明しますと、東日本大震災の津波や地震によって自宅や事業所が無くなり、ローンが残ってしまったので、その後に住宅や事業所を新しく建てようと思っても新しくローンを組むことができない、もしくは二重にローンを支払いながら苦しんでしまう、という問題を二重ローン問題と言います。雲仙普賢岳の頃から問題提起され、阪神・淡路大震災の時にもやはり大問題になりましたが、個人の財産に税金をつぎ込むようなことは原則できないという国の方針で、特に何の政策もとられませんでした。しかし、東日本大震災後、日弁連の副会長になった、仙台弁護士会の新里宏二弁護士が被災地の現状を目にし、二重ローンの問題を何とかしなければいけないと考え日弁連として関係各機関に働きかけるようになりました。ただ当時の政治情勢もあり調整が難航し、日弁連としては法人個人ともに債権買取機構の創設を目指したのですが、結局法人は買取機構、個人はガイドラインになりました。この個人版私的整理ガイドライン(被災ローン減免制度)はあくまでも債務者と債権者の話し合いですので債務者にとっては全債権者の同意が得られないと減額や免除が受けられないというネックがありました。
ガイドラインは、震災の約5ヶ月後の平成23年8月22日に適用が開始され、期待をもって迎えられ、ガイドラインのコールセンターには適用開始から三日間で613件の相談が寄せられたときいています。
私たちも相当の数の被災者がこの制度を利用するだろうなと考えていました。というのも被災三県の全壊戸数というのが約12万件を超えているんです。もちろん親の代からの持ち家ですでにローンがないというパターンもあるとは思うのですが、それでも1万件くらいはあるだろうと予測していました。しかし、結論から申しますと、適応開始から3年半経った時点で和解成立件数は全国で1,169件。わずか1,200件もない状況です。おそらく、最終的な和解成立件数は1,400件以下だろうなというのが私たちの予想です。これは私どもは本当に残念な思いでありまして、さまざまな要因が考えられるのですが、やはりガイドラインの限界といいますか、「全債権者の合意が必要」だったことが利用件数が低迷した理由だと思います。当初の運用は、非常に厳格で、なんと仮設住宅に住んでいる人は適用外とされていました。しかし、住むところを失ったのだから仮設住宅にいるのであって、今は住居費はかからないかもしれないけどいつかは住宅の再建が必要になる人ばっかりというのが普通の考えだと思いますが、「仮設住宅にいる=住居費はゼロ」だからローンは払えるでしょうというのが金融機関やガイドライン運営委員会の当初の考えでした。これはさすがに被災地弁護士会を中心に猛烈に抗議をしまして、平成23年10月には運営委員会が「仮設住宅入居者にも適用されます」と方針を撤回し、一応周知も行われたのですが、その段階で震災から半年経っているので、金融機関から「そろそろ払えませんか」ということで払ってしまった方もいますし、中には地震保険金を全額使って繰り上げ返済してしまった方もいました。本来支援金や義援金などは生活の再建に使われるものなのに、それをつぎ込んで繰り上げ返済してしまった方が相当数いるはずです。あともうひとつ、自由財産といって被災者が自らの手元にいくらお金を残せるかも重要なポイントなのですが、運営委員会が自由財産の範囲を決めたのが平成24年1月でした。自由財産の範囲は相当ゆるやかに決められましたが、相当遅かったと感覚的には思います。
平成23年10月11月に地震保険金などの自由財産を使って払ってしまったという人が出てきたりもしました。また、運用の改善にあたり幾度となく運営協議会が行われまして、仙台弁護士会を中心とした被災地の先生方が本当に多大な労力を使ったというのも忸怩たる思いでした。ただ阪神・淡路大震災の時にはこのような制度自体がありませんでしたから、もちろんさまざまな改善点はあると思うんですけどこれを第一歩として、次の震災に備えて今から検討してつなげていきたいというのが今後の課題です。
【岡本】平成24年の1月には運用変更が行われ、その時にできた制度自体は使えるいい制度になっているのでしょうか。
【杉岡】悪くはないと思います。平成24年1月の制度を平成23年8月に、仮設住宅の人も使えます、手元に支援金、義援金、災害弔慰金プラス現預金500万円、地震保険金の家財部分相当額、車は200万円までは残せますということを掲げて大々的に周知していれば結果は変わったかもしれません。

特集
クローズアップ
トピックス
活動日誌
お知らせ・ご案内