弁政連ニュース
「弁護士の活動領域の拡大」
伊東 卓(第二東京)
1 有識者懇談会と分科会の設置
平成25年6月26日、法曹養成制度検討会議の取りまとめが公表され、この中で、法曹有資格者の活動領域について、「その広がりはいまだ限定的といわざるを得ない状況にある」と指摘された。このことを踏まえ、同取りまとめは、法曹有資格者の活動領域の更なる拡大を図るため、「新たな検討体制の下、各分野の有識者等で構成される有識者会議を設け、その下に企業、国・地方自治体、福祉及び海外展開等の各分野別に分科会を置く」こととした。
そして、法務省に「法曹有資格者の活動領域の拡大に関する有識者懇談会」が設置され、その下に「国・地方自治体・福祉等の分野における法曹有資格者の活動領域の拡大に関する分科会」「企業における法曹有資格者の活動領域の拡大に関する分科会」「法曹有資格者の海外展開に関する分科会」の各分科会が設けられ、現在、試行方策の実践に取り組んでいる。
2 各分科会における取組状況
各分科会で検討されている試行方策等の取組は、以下のとおりである。
- (1) 官庁・自治体・福祉分野について
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- ① 法務省における法テラススタッフ弁護士の研修受入れ
- ② 被災自治体への弁護士派遣に向けた取組
- ③ 全国版行政連携センターの設置
- ④ 条例づくりレビュー研究会による条例等制定支援の取組
- ⑤ 法テラスによる司法ソーシャルワークの取組
- (2) 企業について
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- ① ひまわりキャリアサポートセンターの設置(企業と弁護士・修習生のマッチングの促進)
- ② ひまわり求人求職ナビの改善
- ③ 企業向け情報提供(企業向け広報ツールの改訂、企業向け情報提供会の開催など)
- ④ 弁護士・修習生向け情報提供(弁護士・修習生向け広報ツールの改訂、セミナー・就職説明会の実施など)
- ⑤ 任期付採用スキームの実施
- ⑥ 企業のニーズに応える人材の養成のためのモデルカリキュラムの策定(法科大学院の学生向けカリキュラム、修了生向けリカレント、弁護士会の企業内弁護士に対する研修など)
- ⑦ 女性起業家・女性企業内弁護士支援
- (3) 海外展開について
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- ① 法曹有資格者の海外派遣プロジェクト
- ② 中小企業海外展開支援弁護士紹介制度
- ③ 人材育成事業
3 日弁連における活動組織の設置について
これらの分科会における事業を推進し、弁護士の 活動領域のさらなる拡大に取り組むため、日弁連 は、「法律サービス展開本部」を設置することとし、 平成26年2月の理事会で承認を得た。同本部の下に は、「自治体等連携センター」「ひまわりキャリアサ ポートセンター」「国際業務推進センター」の組織 が設置され、それぞれの分野における活動領域拡大 に向けて活動を開始する予定である。
4 活動領域の拡大の今後について
企業内弁護士は、平成25年6月時点で965名となった(組織内弁護士協会調べ)。企業内弁護士は、平成15年3月時点では88名であったが、これが10年間に10倍以上に拡大したことになる。また、任期付職員として勤務する弁護士は、平成25年6月時点で、中央官庁で89名、自治体で31名である(弁護士登録している者のみ)。
このように、企業や自治体、官庁において、弁護士はすでに活動の領域を拡大しつつある。とくに、企業内弁護士は近年年間100名~200 名程度のペースで増加しており、国内に3, 000社以上の上場企業が存在していること、企業業績が好転していることも考え合わせれば、この傾向は今後も当面続くと考えられる。自治体においても顕著に増加しており、任期付で自治体に採用された弁護士の有用性を評価する声が高いこと、全国に約1, 700の自治体が存在していることを考えれば、弁護士を任期付職員として採用する自治体は今後さらに増加することが確実に見込まれる。
このような状況であるにもかかわらず、検討会議取りまとめは、法曹有資格者の活動領域の拡大について「いまだ限定的」と指摘したのであるが、これは、司法制度改革が目指した事前規制型社会から事後チェック型社会への転換、透明で公正公平な法化社会の実現という視点から考えると、まだ社会の変化が十分には現れていないことから、そのような指摘がなされたものと解されよう。司法制度改革以降の社会変化としては、グローバル化の急速な進展を指摘しうる。グローバル社会において、日本企業が持続的成長を遂げるには、海外進出にその場を求める以外にない。特に、中小企業がアジアを中心とした海外へ進出しようとするには、法的支援が必要な状況にある。このような変化に対応するためにも、弁護士の活動領域の拡大が求められている。
もっとも、法科大学院などの法曹養成課程においては、これらのニーズに応じられる人材育成が十分には行われてこなかったという点が課題として指摘しうる。とくに、法科大学院では、司法試験合格率の低迷に伴い、とにかく司法試験に合格することが優先された結果、多様なニーズに対応する余裕を失ってしまっている。今後、法曹養成制度の改革が実施され、法曹志望者が回復して、多様なニーズに対応した法曹養成が充実するようになれば、弁護士の活動領域はさらに拡大すると思われる。

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