弁政連ニュース
〈座談会〉
こども基本法・こども家庭庁設置法施行
―残された課題(1/5)
―残された課題(1/5)

大谷 美紀子 氏
国連子どもの権利委員会委員長
東京弁護士会会員

中島 早苗 氏
認定NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン代表

吉永 省三 氏
泉南市こどもの権利条例委員会会長
千里金蘭大学名誉教授

栁 優香 氏
司会
日弁連子どもの権利委員会人権救済小委員会委員長
「こども基本法」「こども家庭庁設置法」成立の意義
【栁】2022年6月に「こども基本法」・「こども家庭庁設置法」が成立し、2023年4月から施行されます。日弁連も、2021年9月に、「子どもの権利基本法の制定を求める提言」を公表しています。このような国内の動きについて、まず、国連・子どもの権利委員会の委員長をされている大谷さんから、どのように受け止めているかについてお話しいただけますか。
【大谷】ご承知のとおり、日本は、「子どもの権利条約」を1994年に批准しています。「子どもの権利条約」4条にはこの条約で保障されている権利を実現するために国がなすべきこととして、立法措置、行政措置、その他のあらゆる措置をとるということが書いてあるのですが、日本は、特に立法措置というのはとらなかった。その背景としては、次のような考え方があったように思います。基本的には、既にある法律でこの条約が保障している権利は保障されているから、必要ないというもの。一方で、条約は、批准すれば、そのままで国内法になるので新たに国内法を作る必要はないというものです。
その後、日本は国連の子どもの権利委員会の審査を、1996年、2004年、2010年、2019年の4回にわたって受けていますが、当初は、委員会は、それほど明確に「こども基本法」を作りなさいと言っていたわけではありません。何回か審査を経ていくうちに、日本は、様々な法律で条約を実施するようには一応なってはいるが、結局のところ、子どもの権利条約の考え方を総合的に包括的に国内に受け入れるような法律がないという問題点が徐々に明らかになってきたのです。そのため、2010年、2019年の審査では、包括的な法律がないことを懸念するという言い方になってきます。実施の体制についても同じです。各省がそれぞれの権限の中で子どもに関する政策を実施していますが、結局それがばらばら。また、国と自治体との関係でもばらばらなので、そこを総合的に調整するところが必要ですねということが繰り返し言われるようになります。今回、国レベルの子どもコミッショナー(オンブズパーソンと言うこともある)という話は残ってしまいましたが、条約の基本的な理念や原則を包括的に国内に受け入れるための基本法と、子ども政策の調整権限を担ったこども家庭庁ができたことは評価できると思います。
子どもの権利委員会が、日本も含めて各国に対して言ってきたのは、どこかの省が子どもに関する政策を全部やるというのは無理なので、一つの省庁をつくって子どものことを全部やるというのではなく、各省が担っている子どもに関する政策を総合的に調整する権限を持ち、子ども政策がどのように実施されているかを監視し、データ収集をする機関を設けてほしいということです。そういう機関が日本にはこれまでなかったわけですから、それが新たにできたことに対して期待が持てます。ただ、今回の立法に対して、満足のいかないところがあるとか、今後の在り方について懸念も示されています。私自身は、完璧なものができるまではつくらないというよりは、一歩ずつでも前進していくことが重要だと思っています。いったんできたものの運用を見守り、評価し、必要な場合にはそれを改良していくという、そういうサイクルが始まる基礎になるという意味で大きな一歩だと思っています。

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