弁政連ニュース

特集〈座談会〉

LGBT
―今こそ性別平等の立法課題の解決を(6/6)

地方自治体の取組み

【本多】地方自治体の取組みについてお話いただきたいと思います。既に同性パートナーシップ制度などの同性パートナーあるいはその子を含んだ関係を公的に認める制度は、令和4年1月1日現在、全国の146の自治体で実施されていて、その自治体人口は総人口の43.5%となっています。

【須田】パートナーシップ宣誓制度には法的な効果がないので、根本的には法律で同性カップルの公的保障を認めてほしいと思いますが、それでも同性婚を認めるべきだという議論が民意に支えられたものだということを裁判所が認識するようになったのは、このパートナーシップ制度が広がってきたことが大きかったと思います。それに付随して、例えば自治体の公立病院で、同性カップルでもお医者さんからの説明を一緒に受けられるようにするとか、救急車に乗れるようにしてくれたらいいと思います。それから自治体の公務員について、パートナーが家族として保障される制度を実施していただきたいと思います。

【内藤】社会で起きている問題にどう対処するのかというときに、残念ながら国の法律ができていないとなると、我々が使えるものの一つは地方自治体における条例です。

性的指向・性自認に関する差別等に対する条例がある場合はもちろん、ない自治体でも男女共同参画条例があることは多く、これが性別に関する差別・ハラスメントを禁止しているので、場合によってはSOGIハラもその苦情処理手続が使えるところに注目していただくといいと思います。現在悩んでいる方は、在住・在勤・在学の自治体の条例を見ていただくと、性別等に関する差別やハラスメントの禁止、相談や苦情申立ての制度があって、専門家の人たちに処理を委ねるような制度になっていることがありますので、利用してみる手はあると思います。

平等法の立法への期待

【本多】きちんとした救済のためには、性的な属性に関わる差別を法律で禁止することが必要と思われますが、包括的な平等法について内藤さんお願いします。

【内藤】諸外国では、一定の属性に関する差別禁止法が整っていて、特にヨーロッパでは、EUの指令により全ての国が平等法を持っています。私が専門にしているイギリスも、2010年平等法があります。これは、1960年代から始まった人種、性別等の様々な属性に関する差別禁止法や規則を、2010年に統合したものです。

例えば、日本の均等法は、対象属性が性別だけですし、雇用領域だけを対象とする法律です。そして、その私法的効果については何らの規定もありません。これに対し、イギリスの2010年平等法は、労働領域だけではなくて、教育、サービス提供など、社会の様々な場面を想定しており、性別、性的指向、性自認、年齢、障害、人種、宗教・信条、婚姻および民事パートナーシップ等の保護特性に関する直接差別、間接差別等を禁じています。さらに禁止される行為が起きたときには、労働分野で起きたものなら雇用審判所で争い、救済がなされる旨も規定され、司法救済の根拠となっています。

そういう法律がない状態で我々は暮らしているわけです。職場のハラスメントは法的に禁止されておらず、事業主はハラスメントの予防・対応の義務を課されていますけど、履行していない事業主も多いですし、事業主任せになってしまっています。それはSOGIを含む多くの属性の差別についても同じで、国が禁止法を持ってないので、被害は防止されず、泣き寝入りが多くなります。国としては分野を包括的に、SOGIを含むあらゆる属性に関する差別・ハラスメントを防止・救済できる法律を持つことが大前提です。

【本多】個別的な禁止ではなく包括的な差別禁止がいいというのはなぜですか。

【内藤】イギリスの場合、各属性に関する差別禁止立法が発展しましたが、「平等のヒエラルキー」といわれる状況になっていました。1960年代から属性ごとの法令や規則ができましたが、時代ごとに定義や解釈が異なるようになり、属性間の保護内容に差異が出て、序列がつくような形になってしまっていたのです。これはおかしいということで、労働法の研究者を中心にこれを統合する議論が始まりました。一方、国や事業者にとっても、属性ごとに取り組むべき対処が異なるような形は煩雑になるし、シンプルにしてほしいというニーズもあって、結果として統合されました。

差別やハラスメントはあらゆる場面において、かつ様々な属性(時には複合的)に基づいて起きるため、パッチワーク的な立法では被害の防止や救済に追いつかないですし、イギリスのような経緯も踏まえると、私は日本でも包括的な平等法を目指す必要があると思います。弁護士にとっても司法救済において法制化の重要性はあるのではないですか。

【須田】おっしゃる通りで、弁護士は根拠条文がないと裁判所に訴えることが難しくて、一般条項を根拠にすることになりますが、憲法13条、14条に基づいて個人の救済をするというのは至難の技で、私人間の問題には直接適用もできません。そういう意味では、個人を救済できる個別の法律があって、法的な義務とその救済規定が定められていることが必要だと心から思います。

何かの救済をするときに私が必要だと思う二大要素は、名前が付くことと、法律ができることです。

その昔、家庭内の夫婦喧嘩で、警察は民事不介入だし、法的救済についても「法は家庭に入らず」と言われていたものが、「ドメスティックバイオレンス」という名前がついて、配偶者暴力防止法ができて、ようやくそれは許されないことだという認識が社会に浸透し、個別救済が可能になったわけです。

また男性従業員が女性従業員のおしりを触るみたいなことが許されていた社会の中で、「セクシャルハラスメント」という言葉ができて、男女雇用機会均等法ができて、これは許されないということが社会に浸透したと思います。

セクハラという言葉が日本に広がったのは1989年、最初の国内のセクハラ民事訴訟も1989年で、33年前です。その年に「セクシャルハラスメント」という言葉が新語流行語大賞になりました。しかし、それから30年経ってもまだ解決はしていなくて、30年後の新語流行語大賞に「#Me Too」がノミネートされました。

だから今回労働施策総合推進法ができて、法律の明文ではありませんが、指針の中にSOGIハラが駄目だということが入って、今ようやくスタートラインです。どうやってSOGIハラをなくして性的マイノリティの権利保護をしていくのかを、また30年かけるのではなく、セクハラに関する今までの蓄積を考えて、もっと早く人権救済が可能になるように法制度を整理してほしいと、政治家の方にぜひお願いしたいと思います。



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