弁政連ニュース

特集〈座談会〉

LGBT
―今こそ性別平等の立法課題の解決を(5/6)

職場におけるLGBTの権利保障

【本多】次に職場の問題に移ります。2019年改正の労働施策総合推進法が事業主の措置義務を定めて、パワハラ防止指針には性的指向・性自認に関するハラスメントも取り込まれました。最初に一般的なハラスメント対策の現状を教えてください。

【内藤】現状は、法律上ハラスメントを禁止する形ではなく、事業主がパワハラを防止・対応する義務を負う中に、SOGIハラも含むという形になっています。しかし、先行するセクハラやマタハラの措置義務も一緒ですが、行政の取締法規なので、これを直接の根拠にして訴訟をするという性質の法律ではありません。そのためSOGIハラが起きた場合は、依然として民法の不法行為や安全配慮義務違反という形で訴訟を起こすしかありません。

現行のハラスメント法制は、ハラスメントを禁止していないという問題もさることながら、救済面が非常に弱い。司法救済はなかなか難しいので、行政救済のニーズがあるのですが、労働局でどのような救済がされるかというと、救済命令ではなく、調整的手続に委ねられます。その行為はハラスメントで違法だからいくら支払いなさいという判断がなされるのではなくて、双方譲り合った形で合意をするという手続です。そもそも差別やハラスメントの救済について、両者の互譲的手続に委ねていいのかが問題です。しかも、そこできちんと補償されるならいいのですが、必ずしもそうではありません。私達が2016~2017年度に行った科研費調査(季刊労働法260号)では、0円で合意してしまった事案とか、セクハラで出勤できなかった分の賃金にも足りないぐらいのわずかな補償しか得られない事案などが見られました。

ILOの暴力とハラスメントに関する条約(190号)では、被害者がきちんと救済を受けられることが求められているのですが、日本はそれを満たしていません。現状は、SOGIハラに関する法政策的な問題が多数残っている段階です。

【本多】救済に関して、須田さんお願いします。

【須田】直接的な禁止規定はないので、侮辱的なことを言われた時に使えるのは、従前からあったセクハラに関する男女雇用機会均等法や今回の労働施策総合推進法ですが、これらは直接適用できないので、事業主の安全配慮義務違反を問う形で、こういう措置義務があったのにやらなかったから債務不履行だと一段噛ませた構成にせざるを得ません。直接法律上の請求根拠がある方が、裁判所も認定しやすいし、提訴する側も予測可能性が立ちやすい。救済措置を求める立場としては、直接的な救済条文があった方がいいと思います。

【内藤】安全配慮義務の内容が立法上の措置義務の10項目とイコールという理解でいいのかという問題もあります。そもそも、均等法や労働施策総合推進法で行政が求める措置と、事業主が果たすべき安全配慮義務は意図が別のものです。

措置義務の10項目は、パワハラ予防等のために労働政策審議会で労使が折り合って決めている内容であり、必ずしも使用者が契約上負っている義務の内容と同一ではありません。例えば措置義務では、相談窓口を定めて労働者等に周知することが1 項目になっています。ちょっとイントラネットに情報を載せておくと履行したことになってしまいますが、そういうことで使用者が安全配慮義務を果たしたと認定されるのは危険だと思います。司法判断は現行の措置義務の内容にかかわらず判断すべきですし、両者をリンクさせていくのであれば、措置義務の内容は形式的な取組みでは足りないと思います。

【本多】SOGIハラ自体を規定せず、SOGIハラの一部をパワハラの中に取り込んだという点についてはいかがですか。

【内藤】2019年の法改正では、パワハラの法規制ということで、パワハラを構成する三要素が条文上で示されています(労働施策総合推進法30条の2第1項)。具体的には、①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること、③雇用する労働者の就業環境が害されることの三つに該当すれば、性的指向・性自認などの属性に関する言動であっても、パワハラとして予防したり、対応したりする必要があることになっています(同法指針、通達)。

職場におけるSOGIハラは、②や③は充たすことが多いと思います。ただ、場合によっては、①の優越的な関係を背景とした言動と言えるかどうかが問題になり、そもそもハラスメントの要素に「優越的な関係」が必要なのかという根本的な問題に突き当たります。優越的な関係でなくても誰かから誰かへ投げかけられる不適切な言動は問題だと思うのですが、①の「優越的な関係」を狭くとらえると、こぼれ落ちるものがあると思います。これに対し、「優越的な関係」を、マジョリティとマイノリティという大きな枠で考えて、両者には力の非対称性があるとして、マジョリティのマイノリティに対する言動はすべて優越的な関係を背景に行われているという広い解釈をとるという方法もあるかもしれません。しかし、この「優越的な関係」をどう解釈するかは、非常に不明確です。そもそもハラスメントの名称に「パワー」という言葉を入れたために、裁判所でも限定的に解釈していく可能性もあると思います。ILOの条約ではあらゆるハラスメントを対象にしていますが、残念ながら現行法では網羅しているとは言い切れません。

【本多】網羅という点では、職場内ではなくて、例えば、顧客によるアウティング注)は入らないですね。

【内藤】そうですね。先ほどの①の「職場において」という文言については、職場外の人から受ける行為は措置義務の対象ではないということになっています。ILO条約は、ハラスメントについて、仕事の世界で接する誰からも受けないし、誰に対してもしてはいけないと言っているのですが、これと比較すると日本の法律の適用範囲はだいぶ狭いという問題があります。

【本多】トランスジェンダーの人が職場で休みたいときの問題をご説明いただけますか。

【遠藤】トランスジェンダーの人の中には、定期的に2~3週間に1回ホルモン注射を打つために通院する必要がある人や、性別適合手術を受けるために1か月くらい休む必要がある人もいますが、そういうときに職場に理由を告げることが難しかったりします。例えば、異動を命じられた地域にはホルモン注射を打てる病院がなくて、平日に職場を休まないと通院できないときに、休む理由を言うことも難しくて、結局職場を辞めてしまった例があります。性別適合手術の場合も1か月休むというのが難しくて仕事を辞めてしまう例は多いですね。定期通院が必要な人の転勤や通勤に関して配慮があるとよいと思います。

【内藤】年次有給休暇制度については、労基法上は「雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者」となっているので、同法の最低基準に沿った形の企業では、6か月過ぎないと取得できないという点がネックになります。

法律上の義務ではありませんが、病気休暇の制度がある企業もあります。しかし、これは年休と異なり、病名を届け出させる手続の企業が多いので、理由を明かしたくないというトランスジェンダーの人に使いやすい制度ではありません。

また実際上、日本では年休を風邪などのときに使うケースが多く、長期に取りにくいです。そうしますと、性別移行するからといってまとまった形で年休を取れるという感じにはなかなかなりません。結局は会社を辞めることになってキャリアが継続せず、再就職の時に面接で苦労したり、賃金が下がったり、非正規労働になったりという不利益を受けることが多いと思います。トランスジェンダーの人が就業継続できるような制度を考える必要があります。なお、イギリスでは、トランスジェンダーの性別適合のための欠勤を、病気等による欠勤の場合より不利益に取り扱うことを差別として禁じています(2010年平等法16条)。

【本多】札幌市の企業に働きかける制度について、須田さんご紹介お願いします。

【須田】札幌市では同性パートナーシップ制度を作った時に、合わせて札幌市内の企業に対してLGBTフレンドリー指標制度を作りました。従業員研修を受けさせているとか、就業規則の中にLGBTに配慮した規定を作っているとか、いろんな細かい項目があって、それを充たすと一つ星とか二つ星という形で星をもらえて、それが札幌市のホームページで市民に公開されています。ですから、例えば、同性カップルが2 人で部屋を借りようというときに、差別的な対応をされないために、札幌市のホームページで仲介業者を探して対応してもらえたという話も聞いています。



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