弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

いまこそ再審法の改正を(6/6)

我が国における取組

【小川】それでは再審法改正に向けてわが国ではどのような取組みをしているのか、ご紹介いただけますか。

【野嶋】日弁連では、1991年3 月に「刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」を採択し、それ以降、法改正を求め続けてきています。この再審法改正の日弁連案の一番重要なポイントというのは、白鳥財田川決定の成果を立法的に成立させようという狙いがあった。しかしその後、裁判所は白鳥決定についてこれは総合的に評価すると書いてあるけど、限定的に再評価するというようなことを言い出して、再審請求を棄却する決定が出されるようになった。そのため、再審弁護団は、裁判所を本来の総合的再評価説に変えるための弁護実践の構築に力を集中した結果、再審法改正を正面に据えた取組みが立ち遅れたと私は思っています。

【山本】大崎事件、名張事件、布川事件と再審開始が続くようになりました。この間日弁連では、何度も全国再審弁護団会議を開催し、事件のバックアップをはかるとともに、証拠開示については継続的に取り上げてきた。これが今日の証拠開示の展開に結び付いたという風に理解しています。

【鴨志田】この間、再審に取り組む弁護団の間で情報を共有しようということで全国再審弁護団会議が開催されるようになったのです。証拠開示が進んだ事件と、全然されていない事件との格差が問題視され、日弁連では2014年に「再審における証拠開示に関する特別部会」が設置されました。『隠された証拠が冤罪を晴らす―再審における証拠開示の法制化に向けて』(現代人文社、2018年)という書籍も作りましたし、さらに2019年5月10日付で「再審における証拠開示の法制化を求める意見書」を発出、10月には人権擁護大会シンポジウム(第3分科会)のテーマとして再審法改正を取り上げ、決議にも至りました。やっと日弁連として再審法の改正に正面から取り組むという動きが活発化してきたのが現状です。冤罪は国家による人権侵害の中でも最大のもので、人生を破壊し、冤罪で死刑が執行されればもはや取り返しがつきません。日弁連は、今こそ再審法改正に向けて動くべきだと思いますし、私もそれに向けてできることをやっていきたいと思っています。

【木谷】日弁連の活動を下から支えようと、「再審法改正をめざす市民の会」で活動しています。日弁連の活動は特別部会での議論を経て、要綱案を立ち上げて決定して国会に働きかけることになるんだと思うのですよね。国会議員の方にいかに関心を持っていただくが第一だと思う。市民の会の方ではすでに地方議会に働きかけて決議をしてもらうとか一部の国会議員に働きかけて関心を持っていただきつつあります。是非とも超党派の国会議員の方々による議員連盟を立ち上げていただきたいと思います。

再審法改正について立法府に望むこと

【小川】最後になりますが、望ましい再審法制度に関して立法府に望むことについてお話をいただけますか。

【鴨志田】2016年の刑訴法改正で、通常審においては証拠の一覧表の交付制度等、証拠開示についても改正がされました。この時の法制審議会の有識者委員たちは、再審でも証拠開示の規定を作るべきだとかなりはっきり言って議事録にも残っておりますけど、個別の事件ごとにちゃんとやっていますからと言ったのは裁判官委員だったんです。現在、2016年改正附則9条3項に基づいて最高裁、法務省、警察庁、日弁連の四者協議をやっていますが、議論が全然進んでいない。国会議員が四者協議の内容を質問し協議の進捗を促すことが重要であると思います。さらには、議員連盟を作るなど再審法改正に向けて直接的に国会議員の方々が動き出していただくことを切にお願いいたします。

【野嶋】いろいろなアプローチの仕方があると思うのですけど、科学的証拠、特にDNA鑑定ですね、こういったものによって再審無罪となるケースが日本でも出ていますし、アメリカなんかでは非常にたくさんあることが知られています。そこで冤罪者を救うために検察が持っている資料、DNA鑑定の鑑定資料、鑑定の対象になる物なども第三者機関が保管して、そしてそれについて再審請求をしようとする弁護人がアクセスできる法制度が必要だと思います。科学的証拠によって有罪無罪が適切に決まるのだったら、科学的鑑定を利用することができる制度が良いのではないか、というアプローチは、割と一般の人に響きやすいと思うのです。そういうところから入っていくというのも、一つの戦略なのではないかなと思っています。

【山本】再審で証拠開示によって無罪が明らかになることが多々あるわけですからそのことをまずは進めていただきたいということと、それから検察官の上訴権、不服申し立てをすることによって冤罪被害者の被害をますます大きくしているわけですから、それはなくしていただきたいと思うのです。もう一つ、諸外国であれば一つの冤罪事件が起きただけで調査委員会が作られて、事件を検証して新しい制度に生かされるのですけれど、日本ではこれだけ多く再審開始、再審無罪という結果を生み出しているのにも関わらず、国会でもなぜか全然議論しようとしない。原発とか航空機とかの関係では限定的ではありますけど、それなりの調査がされて一応の結論が報告されています。ぜひ誤判、冤罪の原因究明について、立法と並行してやっていただきたいと思います。

【木谷】最高裁を相手にした法改正はなかなか簡単にいかないですよね。のらりくらりと「裁判所は、事件に応じて適切にやっています」みたいなことを平気で言うわけですから。結局は国会に直接働きかけて議員立法でやるしかない。それをやろうと考えた場合、大崎事件の最高裁はあまりにもひどいという認識が一般に広がってきてここまで世論が盛り上がっているこの時期は絶好のチャンスです。この機会を逃してはまた何十年も改正のチャンスはないだろうと思います。ドイツはさっき鴨志田さんが紹介されたようにすでに1960年でしたっけ、もう検事の上訴権を否定したわけですね。だから現在の再審法の母法であるドイツ事訴訟法ですらすでに変わっているんだからと言って、日本の再審法改正運動を進めるべきだと思います。

【小川】以上で座談会を終了させていただきます。再審法改正に向けて、本座談会の議論が一助になればと願っております。本日はありがとうございました。


(2020年1月14日 霞ヶ関弁護士会館)


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