弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

いまこそ再審法の改正を(3/6)

【小川】再審手続について、全く規定がされていないというところが大きな問題であるという話を頂きました。この点についてさらに踏み込んだお話を、山本さんから。

【山本】私が担当した布川事件と福井事件の証拠開示の状況についてお話したいと思います。布川事件については本当に手探りでしたが、弁護団としてはできるだけ個別具体的な証拠を問題にしていこうという方針を取りまして、記録をできる限り読み込んでこういう証拠があるはずだ、この証拠は再審請求にどういう関係があるかをできるだけ具体的に明らかにしました。検察官から証拠があるという答えを引っ張り出すと、どうして裁判官に隠しているのか、それなら開示せよということが起きたわけです。しかし検察官は有るか無いかといった時に「見当たらない」という答え方をしてごまかそうとしました。これに対しては証拠の読み込みの中から必ずこういう証拠があるはずだと主張しました。そういう中から、死体検案書とか毛髪鑑定書という客観的な証拠から証拠開示が進みました。証拠開示がある程度進んでいきますと、警察が送致の際に証拠に通し番号を振っているのですけど、抜けている部分が出てきます。でそこに何かあったのではと指摘しました。そうするうち、第二次の一審の裁判官から、こういう証人の供述調書を出して欲しいという依頼が出され、それに基づいて供述証拠、特に目撃証人の調書などが出てきたのが再審開始の大きな力になりました。

福井事件に関しては私が関与したのは特別抗告審からですのでその前の段階の弁護人の活動ということになるのですけど、検察官の対応がまず証拠を出さない、それから、あるかどうかを答えるかどうかもわからないという対応をするのです。しかもそれに対して裁判所も強くものを言わないという状況が続きました。そこで福井事件の当時の弁護人は非常にわかりやすい、パワーポイントを使ったプレゼンテーションを二回、三回と繰り返した。その結果、証拠の有無を答えるようにと裁判長から勧告が出て、やっと検察官が有る無しを言い出したのです。裁判官が開示をするようにといいましたら、検察は今度は、弁護人二人に限る、閲覧だけで、謄写、撮影は認められない、なおかつ検察事務官立ち合いだ、とこういう無茶苦茶な条件を付けてきました。さすがに裁判所もこれには呆れ果て、では裁判所に出しなさいと勧告があって、ようやく出てきたという経過があります。

布川も福井も同じなのですけど、比較的物的証拠は出しなさいという話になって、それから裁判官の理解が進むと供述調書の提出という風に進んでいきました。布川事件の場合はとても重要な目撃証人の初期供述から、いかに供述が誘導されていったか明らかになりましたし、福井事件も33通という供述調書が出てきて、私が見たときも、布川事件以上にこんな大掛かりなねつ造事件があるのかという思いを深くしたものです。

【野嶋】再審無罪になった松橋事件では、自白では凶器に布を巻き付けて刺殺し、その布を燃やしたので、布がないということになっていたのですが、実は布が存在していた。どうして弁護団に分かったかというと、再審請求準備している段階で、当時検察庁に対して、再審請求人の宮田さんから押収したものは、本人の物なのだし、その他のものも全部見せろと言ったら、被害者から押収したものも、宮田さんから押収したものも全部証拠物はまとめて見せてくれて、宮田さんから押収したものの中に宮田さんの家の中にあった布の切れ端が出てきまして、それが正に巻き付けたはずの布で、それは燃やさずに残っていて血もついていないことも分かったのです。

ただしこの事件では被害者の着衣について、血痕が付いていたものですけど、セーターとかシャツなども開示されまして、それをこちらがお願いした鑑定人の先生に形状を測定してもらって、それを基にして凶器と傷の不一致という新証拠を作ることができて、これが非常に決定的で重要な証拠の一つになりました。

例えば姫路の郵便局強盗事件がございますけど、犯人のものとされた目出し帽が再審請求前に請求人に還付されて、それについてDNA鑑定をやって、それが非常に重要な新証拠になっているわけです。再審請求人に還付される押収物については、再審請求前でも証拠開示なり証拠物の閲覧なりを行って、それを元に新しい新証拠を作っていくことが必要ではないかなと思っています。

他の事件で言えば、三鷹事件では我々が求めていた証拠開示請求について、東京高裁の裁判長でしたけど、反対する検察官に対してこれは裁判所からの勧告なのだから応じなさいということを面と向かって言って、ほぼ開示させたことがあります。

あと小石川事件も、一応裁判所が我々の求めている重要だと思われる証拠について証拠開示の勧告をしている。

証拠開示が一番進まなかったのは名張毒ぶどう酒事件です。裁判官によっては、法律にないから開示しなくてもよい。検察官も見当たらないと言うのですよ。あれだけ古い事件になると、確かに全部検察官の手元にきれいに証拠がそろっているわけではないので、どこにあるかわからないという状況になっている。そういうところがまた非常に大きな壁になっていると思います。

もう一つ苦しんでいるのは鶴見事件という事件ですけど、これはまだ裁判官がダメだとは言わないのですよ、証拠開示について。ただ消極的な現状があって、弁護人として開示に向けて頑張っているのですが、中々難しい。ではそういう場合にどうするのかということで私なりの考えを申し上げると、第一に証拠開示を求めている論点に関連して新証拠を作る。できる限りそれを探し出し、作り出すことで証拠開示が必要だということを求めていく。第二に開示を求めている証拠が本来存在していることをできる限り裏付けるということです。すでに検察官から開示されている別の証拠の中に我々が求めている証拠の存在がちらりと書かれていることが度々ありますし、存在するのなら開示しろと、これは一つ説得力がある。ただしそこまでやっても消極的な裁判官は、再審の条文に開示なんて書かれていないし、再審では弁護人が新証拠を作って出すことになっているのだから弁護人の方で新証拠を作る義務があるのであってわざわざ裁判所が証拠開示して、新証拠を作ってやる必要はないだろうと、そういう理解をしている裁判官がいるのですね。そういう裁判官の場合は先ほど木谷さん、山本さんも言いましたけど、裁判官が異動するまで待つ。下手な判断をさせずに、こっちも待つというのが一番いいのではないかと思います。



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