弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

いまこそ再審法の改正を(2/6)

再審手続を具体的に定める条文がない

【小川】ありがとうございます。再審の証拠開示における法制化の必要性を考えるにあたって、そもそも再審手続を具体的に定める条文がないという点について、どのような不備をお感じになっているのか、具体的な経験からご見解を伺えますでしょうか。

【野嶋】まず通常の刑事事件と違うのは、期日が決まっていないということですね。いつまでに何をしなければならないという規定が法律上何もない。だから裁判所としては、ほったらかしにしていても誰にも怒られない。もう何十年も前から再審に携わる弁護士は、通常の事件に近づけようとして裁判所に対して裁判官、検察官、弁護士が会って進行について協議する三者協議の期日を求め、事実上三者協議期日が開かれていくという運用が慣行として定着してきました。あくまで慣行であって法律上は根拠がない。裁判所は三者協議を開く義務があるとは思っていないので、裁判官の胸先三寸で運用が大きく変わります。

私の経験の中で言うと、名張毒ぶどう酒事件の第10次請求審と異議審の裁判所の対応ですが、とにかく弁護人と会おうとしない。三者協議どころか弁護人と会おうとしないし、完全に無視状態。また証人尋問について、やはりこれも条文がないので、裁判所によって非常に運用が分かれている。通常審だと証拠の同意、不同意手続がありますから、弁護人請求証拠について検察官が不同意と言ったら、それを証拠化するためには証人尋問をやるしかない。ところが再審の場合は同意、不同意がないので弁護人が新しい証拠を出すと裁判官はそれを書面で読むことができてしまう。弁護人は難しい鑑定書でも少しでも裁判官に分かりやすくするための工夫をして作りますから、裁判官もそれ読むと内容が分かったような気になり、鑑定人の尋問なんかやらなくても書いてあることは分かったし、証人尋問の必要はないという話になる。ところがしょせん素人の判断ですから、間違った判断をすることがある。私は再審でも新証拠について検察官に同意、不同意の機会を与えて不同意にした場合には弁護人は証人尋問を請求する権利があると明記しなければならないと思っています。

【山本】詳しい条文もないうえに、再審事件に取り組んだ弁護団の多くの人はあまり経験がなくて再審に関わってくると思うのです。まして布川事件の第二次の準備期間は再審冬の時代と言われた90年代から2000年の初めの頃で、とにかくやってみなければわからないという意識でした。再審は裁判所が職権でなんでもでき、あるいはしなくて済んでしまう。免田事件のような、良い裁判官に当たればいっとき進むこともあるけれど、そうでない裁判官になるといま野嶋さんの話にありましたけど、放置することはいくらでも可能で、次の任地に異動になるまで引き延ばしているとしか考えられない対応もある。進行協議についていえば、布川の場合、第二次再審の第二審は、比較的頻繁にありましたが、第一次再審、それから再審開始決定を出してくれた第二次の第一審の裁判官も進行協議はそんなになかったです。色々な事件での積み重ねの中で進行協議がだんだんと位置づけられるようになっていると思います。証拠開示について申し上げますと、布川の第二次の場合、まだ標準になるものがなかったので手探り状態でやらざるを得なかったです。詳しくはまた後で述べたいと思います。

【鴨志田】再審の条文って全部で19条しかないうえに、手続について定めている条文は刑事訴訟法第445条しかないのです。445条は「再審の請求を受けた裁判所は事実の取調をさせることができる」というものなのですが、この「事実の取調」という言葉以外何も決まっていません。ドイツ由来の旧法の時代から今の当事者主義になっても、再審請求審は職権主義で裁判官の裁量でやればいいのだとなっていて、しばしば「職権主義だからやらなくていいんだ」、「職権主義だから当事者の言うことを聞かなくていいんだ」という文脈で使われてしまっている。再審法の改正の話をすると、法務省とか最高裁は必ず「裁判所が事件ごとにちゃんと裁量によって対応しています」という。しかし大崎事件というまったく同じ事件で、第一次、第二次、第三次のそれぞれの裁判体の対応は全く異なっていました。第一次は鹿児島地裁の請求審で再審開始決定が出ていますけど、これは1995年に申し立てて決定が出たのは2002年です。請求審に7年かかっていて、裁判体は3 つ目なのです。要するに最初の裁判体は何もしない、二つ目の裁判体が記録を読み始め、最後の裁判体がようやく決定を書く、そんなことがまかり通っている。第二次に至っては本当に請求審の裁判体は何もせず、進行協議は何カ月に一回かは開くのですけど、証拠開示もしない、尋問も何もしないということであっさり棄却してしまった。即時抗告をして高裁に上がると証拠開示の勧告もし、尋問もしてくれたのですけど、結局それが判断に活かされていない。第三次になってまさに職権主義だからこそできる積極的な訴訟指揮をしてくれました。一つの事件で裁判所によってこんなに差が出る現状がフェアな手続きであるはずがない。条文がないということの弊害は大崎事件一つをとってもすごくクリアに分かると思います。

【木谷】いま鴨志田さんが言われた、再審法が旧刑訴法をそのまま引き継いでいるという問題ですね。私は、刑訴法の改正にあたられた団藤重光先生から直接聞いたのですけど、先生は、捜査と公判を根本的に変えたために、その段階で精魂尽き果ててしまい、上訴と再審には全然手が回らなかったとはっきり言われました。そんな古い条文を金科玉条のように使うのはおかしいと思います。

裁判官の多数派は、おとなしくやって無事定年を迎えたいという人です。そういう人が一番担当したくないのは、著名再審事件、これをやるとどうしても目立ってしまいますよ。任期中やらずにバトンタッチをしたい。二人も三人もパスして、どうしてもやらなければならないとなった場合に、証人調べなんてすると、やっぱりおかしな事件だと分かってしまう。だから、そんなことをやらないまま、検事の言うとおりに請求を棄却しておけばなんとなく責任を果たしたような外観が作れると考えているのではないか。さっき野嶋さんが言われた名張の第十次の裁判所と同じように、恵庭事件の第一次再審の即時抗告審は、三者協議すらしませんでした。弁護人が三者協議をしてくれと申し入れても「現段階では必要を認めません」「必要があったら連絡をします」と言って、一週間後に平然と抗告棄却をしました。

冤罪救済に熱意を持った裁判官を何とか増やさなければいけないと思いますけどなかなか難しいですね。



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