弁政連ニュース

特集〈座談会〉

子どもたちを虐待から守るために
〜改正児童福祉法・児童虐待防止法のこれから〜(5/6)

児童相談所の常勤弁護士と法的支援

【石井】東さんは、このほど児相の常勤弁護士になられたということですが、常勤弁護士の利点と課題があればお話しいただけますか。

【東】利点は即応性というか、何か起きた時に私もその場にいることです。非常勤だったときは、後日談として聞いていたのが、常勤になってからはリアルタイムで判断を示すことができるようになりました。それと私はワーカーさんと同じフロアで仕事しているので、ワーカーさんの様子がわかり、こちらから声を掛けて手伝うことができます。職員の方から常勤弁護士が後ろに控えてくれていると思うと、安心して飛び出していけると言ってもらえます。

課題は、常勤弁護士の業務が標準化されていないので、何もかも手探りですので、間違ったスタイルを作らないようにということを気にしています。

【石井】実際に児相の常勤で入ってみて、状況はどうでしたか。

【東】私が勤めているこども家庭センターに関しては、東意欲的で疲れを知らない人たちという感じで一丸となって取り組んでいますね。自分たちが子どもを守る砦だという意識が大変強く、頑張りすぎているという感じです。私たちは何とかして親子関係を調整したいので、保護者の方には来所面接のお願いをするわけです。そうすると、「夜だったら、土日だったらいける」と言われるので、夜間・休日の対応がとても多くなり、長時間勤務が常態化しています。関係機関との連携にも課題があります。これまでの法改正で児相の権限が強化されていますけど、地域の中で子どもは育っていて、地域のネットワークの中で福祉を実現していく枠組があるのに、児相だけ強化しても、児相一人で走っても他機関が付いてこれなければ支援の形が作れません。例えば性被害、性虐待にあったお子さんの全身系統診察をしてくれる病院は神奈川県では一か所しかありません。スクールソーシャルワーカー配置はようやく始まったばかりです。

実は通告元になってくれない機関がいまだにあります。子どもの所属機関から「心配な子がいる」との連絡があっても、うちから聞いたとして家庭訪問するのはやめてほしいと言われます。48時間以内の安全確認を取るのに、あそこから聞いたから来ましたと説明できないなら、どこから聞いたことにしようかというところにすごく時間を使っています。

【奥山】それは法律上、秘匿され得ることになっていると思います。大抵医療機関は通告しましたという告知をしっかりしますが、児相と話し合って、言わない方がいいだろうという決定をした場合には、医療機関も児相も、聞かれても言えませんということで貫きます。

【磯谷】川崎の話は介入するにあたって通告者がある程度分かる話にしないと焦点化できないという話ですよね。ケースによるのでしょうが。

【東】あとは保護者に関わる専門職がいないですね。児童心理司もいるし児童精神科医もいるのですけど、子どものケアをするのが仕事です。親の治療を勧めるなど親支援のツールが足りていません。児相の介入機能だけを強化していくよりは、子どもに関わるところを全体的にバランスよく底上げしていくことが大事だと思います。

【石井】東さんを支える弁護士会のバックアップはどうでしょうか。

【東】私自身は神奈川県弁護士会の児童福祉部会に所属しており、改正の動向や審判例などの知識を得る場や、情報交換の場として、非常にありがたいと思います。また日弁連が児童福祉の分野で情報発信をしているほか、夏季合宿なども組まれていて、児相で働く弁護士のバックアップとしてありがたいと思います。ただ弁護士でも児童福祉を何もご存知でない方が事案に関わると、論点がかみ合わないので、弁護士全体に児童福祉に関して知っていてほしいと思いますね。

【石井】磯谷さんは、弁護士会が児相の常勤弁護士に対してどのような関わりをすべきとお考えですか。

【磯谷】東さんのように長いキャリアのある方が常勤弁護士になれば問題ないのですけど、現実には弁護士経験の浅い方が就任することが多いと思われますので、日弁連子どもの権利委員会としては常勤弁護士になる人などを対象に、児童虐待についての基本的な知識を提供する研修会を実施しています。また、夏季合宿や付添人経験交流集会という形で1年に2回大きな集まりをもって、その中で児童福祉に関するコマが用意されて最先端の議論をしております。児相の常勤弁護士にとってもとても参考になると思います。加えて、常勤弁護士からの希望があれば、児相実務に精通した弁護士がメールで相談を受ける態勢をとることにしています。

【石井】磯谷さんは長年にわたり児相の法的支援に取り組んでこられましたが、児相の法的支援に関して今後の課題と展望をどうお考えですか。

【磯谷】私が児相と関わりを持ち始めた20年以上前には、まだ児相において弁護士のニーズは大きくありませんでした。しかし、児童虐待が深刻化し、児相が親と対峙してでも子どもを守らなければならなくなりますと、日々法律問題に直面するようになりました。その中で弁護士の法的支援は重要性を増してきていると思います。2016年の法改正で弁護士を配置するという規定が入ったのも、全国の弁護士たちが児相支援に取り組んできたことが評価されたのだと理解しています。今回の改正で、常時弁護士の助言などを受けられる体制を確保することになりましたが、これも弁護士の関わりがより深く求められているのだと思います。児相の実情も地域によってさまざまですし、弁護士のライフプランの問題もありますから、常勤弁護士が常に優れているということではなく、地域の実情を踏まえつつ、弁護士が日常的に、より深い形で関わることが期待されていると思いますし、日弁連としてもバックアップしていきたいと思います。



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