弁政連ニュース

特集〈座談会〉

子どもたちを虐待から守るために
〜改正児童福祉法・児童虐待防止法のこれから〜(3/6)

児童虐待防止のための組織の在り方

【石井】児童虐待を防止するための課題をどうお考えですか。

【奥山】抜本的に改革しなければだめだと思います。2016年の児童福祉法改正で子どもの権利を基盤にするというのは総論で謳われています。ただ児相の業務についての規定は、子どもの権利を第一に守るという規定になっていません。「児童に関する家庭その他からの相談のうち、専門的な知識及び技能を必要とするものに応ずること」(児童福祉法第11条第1項第2号ロ)一番最初に挙げられている業務です。つまり、子どもの相談に応じなさいというのではなく、子どもに関する家族等からの相談に応じなさいということです。児相の相談の対象は子どもではなく、その家族なのです。児相は子どもを権利侵害から守るところと位置付けてほしいにも拘わらず、そういう位置づけになっていないのです。

厚労省は2022年までにすべての市区町村に子ども家庭支援拠点を置くということなので、子どもに関する家庭の相談については、基盤強化しながら身近な市区町村で相談に乗り、児相は、市区町村と連携して、子どもを権利侵害から守るところと明確にしてほしいと思います。

【磯谷】これまで児相は、家庭を支援しながら、虐待があると介入もしてきました。それには利点もあるのですが、難点もあります。例えば、子どもが安全でない状態にあり、本当は直ちに保護しなければならないケースなのに、家庭支援をしている中で、「あのお母さん、頑張ってきたから、もう少し頑張らせてあげたい」などと思ってしまうことがあります。あるいは、親から脅されたりして判断の目が曇ってしまい、介入の機会を逃すこともあります。逆に、介入するときは怖い顔をしてやるわけですけど、そこから支援に移るとき、どういう顔をして行くのかという悩みもあります。そこが昔から問題になっていて、支援と介入を分けた方がいいという意見があります。確か、川崎市では分けていましたね。

【東】川崎市では、以前は介入チームと支援チームを分けて設けていましたが、やめています。内部で見立てを共有できるかとか、いつ支援チームに引き継ぐのかという内部調整が難しかったと聞いています。現在は、横浜市がチームを分けていますが、やはり介入チームから支援チームに引き継ぐタイミングが難しいと聞いています。

【奥山】同じ組織の中でやること自体難しすぎるのです。児相の目的を大きく変える必要があると思います。今の制度では、市町村と児相は両方が相談に乗るところなのです。児相の方が専門性の高い相談を対象とすることになっていますが、相談する方には自分の相談の専門性が高いのかわかりません。違う組織なのに同じ機能を持たせておいて、一方で、一つの組織で支援も介入もやろうとしているわけです。それは混乱に結び付くと思います。

【石井】家庭の支援に力を入れる組織と介入して子どもの権利を守る組織は分けた方がいいということでしょうか。

【奥山】国際的にも分けている国が結構あるので、そういう国のやり方を勉強しながら分けていった方がやりやすい形になってくると思います。市区町村が家庭支援を主導して、児相の役目は本当に必要なケースに介入するということにする必要があると思います。

【磯谷】同じ児童福祉司さんが最初から最後まで関わるということには弊害があったし、今でもあると思います。例えば介入で忙しくなると、人数不足の問題もありますけど、すでに保護している子どもたちの支援はどんどんおろそかになることがあります。もっとも、単純に支援と介入を分ければ解決するわけでもないという意見もあって、そこは知恵を出し合って、よりよいあり方を探っていく必要があると思います。

【奥山】その背景にあるのは、やはり一人一人の専門性だと思います。専門性のある者同士ならやり取りが結構うまくいくのですけど、どう伝えたらいいかわからないから抱え込んでしまうということが結構起きてきている気がします。

【東】川崎市は政令市なので、区役所が地域の拠点になって虐待の予防などを一手に引き受けるほか、支援ベースの事案を担当し、一時保護を検討するような事案は児相が担当する形で、役割分担をしています。ただ、区役所での業務は母子保健などその他の支援業務と一緒に担当しているので、虐待の専門性を身に着けた職員が足りないのです。多くの予防的に関わっているケースから危ない事案を見つければ児相と共有するのですけど、それを見つけだせず児相と共有しないまま区役所ケースとして事故が起きている現状があるのですね。市区町村に支援ベースの拠点を作ることは非常に大事なのですけど、たった一粒の危ない事案を見つけて児相と共有するんだという感覚をもった職員をどう育て、どう活躍させるか、が課題だと考えています。

CDRの必要性

【石井】さきほど奥山さんからCDRのお話がありました。要するに全ての子どもたちの死亡事例を集めて、それぞれ分析し、そのデータを共有する制度ですが、CDRの導入について、奥山さんどう評価されていますか。

【奥山】CDRは日本ではやっていませんが、必要性があると思います。アメリカでは70年代の終わりにスタートしています。最初は虐待かどうか見分けようというところからスタートしたわけですけど、やってみるとプリベンタル・デス(防ぎ得た死)という事故や自殺を予防する上でも非常に重要な役割があることが分かってきています。すべての子どもの死を検証していくことは、子ども全体にとって意味のあることで、虐待に関しても明らかな虐待とされたもの以外にかなりの数の虐待があったとされています。

【石井】児童福祉司の教材にもなるわけですね。

【奥山】児童福祉司の教材にもなると思います。今の厚労省の虐待死検証も児童福祉司の教材としては良いですけど、報告書を書く際に、現地にお伺いを立てて、拒否されると入れることができないのです。本当に伝えたい必要なことが教材として伝えられているかは疑問です。



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