弁政連ニュース

特集〈座談会〉

公文書管理の現状と課題(4/5)

「罰則」を設けるべきか

【柳楽】故意であるか過失であるかはともかくとして、公開されるべき行政文書が出てこない。保管しておくべきものが保管されていない。特に、故意に廃棄したり改ざんしたりというのは極めて悪質で、そんなことは行政としてあってはならないことだと思うのですけれども公文書管理法は、そういう行政文書の改ざん行為などに罰則を置いてないですよね。

【出口】ないです。だから最近、罰則を設けるべきではという議論が出てきています。現状でも刑法の公用文書毀棄罪に当たるのではという話はありますが、それを超えて独自に罰則を置くのがよいのかどうかという点は議論がありうると思います。罰則を設けることで、かえって文書が出てきにくくなるのではないかという見方もありますし、組織共用の文書ですから改ざんや廃棄も組織的に行われるわけで、その中から誰か行為者個人を特定して罰するという話は違うのではないかという議論もありうると思います。

【三宅】3月2日に朝日新聞がスクープした森友の件は、三宅総理夫人とか政治家の名前とかが出てく る経緯の説明部分を消したというものでした。あえて別の言い方をしますと「圧縮」したわけで、これは「嘘」ではないわけです。仮にこのような行為に対して1年以上10年以下の懲役とか刑法と同じレベルの厳しい罰則を作ると、スカスカの文書しか作らなくなるのではないかと危惧します。処罰が目的なのではなくて、行政の意思形成過程が国民にきちんと示されるようにすることが目的なわけですから、「あなたたちを信頼していますから、きちんと丁寧に国民に説明してくださいね」ということで罰則を作らなかった。それが立法の時の思いだったわけですけれども、これだけ裏切られてしまうとちょっとどうなのかなと思ってしまいます。

【森田】誤字の修正にしろ、中身を要約するにしろ、少なくとも一旦作った文書を変える場合には変えた経緯は全部残せと言ってもいいと思います。

【柳楽】一度決裁文書として作られたものは固定しなければならないはずですよね。それをバージョンアップというか、後から中身に手を加えるというのはそもそもどうなのでしょうか。

【森田】それ自体いけないのですが、どうしてもそういうものを作るのであれば時系列をはっきりさせて誰が、いつ、何のために、どのように変えていったのかを検証できるようにきちんと記録を残してもらわないといけませんね。それは義務付けてもいいと思います。

【柳楽】電子決裁ですと、電子的にログが残りますものね。いつ誰が書き換えたか、いつ誰がこのファイルを保存したかというのが全部残っていて、一つ前のバージョンどうなっている、その後のバージョンどうなっている、というのを追跡できるような形になっている。今の技術的なレベルからいうと不可能なものではないと思うのですが。

【出口】現にそれで財務省が改ざん前、改ざん後出せたのは、あれはたまたま電子決裁やっている文書について履歴があったからということですものね。

【三宅】だから、罰則を設けるかという話と、電子データの改変過程を記録するシステムを導入するべきという、法律面と技術面の話が2 つあって、技術的な問題でちゃんとしていけばこんなことは起こらないということで、罰則云々ということも考えますが、コンプライアンスの面から、禁止事項を明示することと共に、まずは技術的なところをきちんとしなければならないと思います。民主主義の根幹にかかわる公文書管理において、公文書を改ざんして1年余の国会審議に付した責任は、むしろ公文書偽変造よりも重く、少なくとも免職などの懲戒処分基準は必要でしょう。

技術環境の変化に応じた態勢作り

【柳楽】技術的には法律制定当時からは相当環境が変わっていますよね。機動的にルールに取り入れて行かなければならないのではないかと。

【三宅】アメリカではオバマ前大統領のメモランダムというのがあって、アメリカ政府の電子メールは基本的には全部残すということになっています。日本では紙の文書を作ったらメールや電子データはいつ捨ててもいいみたいなことをやっていますが、少なくともこの点については日本もアメリカを真似するべきで、民主主義国家で国民のために記録を残すという意味ではこの方向しかないと思います。

【出口】技術面では、電子データと紙の両方のファイリング技術の話と、法律の話はセットで進めて行かなければ、法律を作っても現場の事務が動かないということになると思います。

【柳楽】ちょっと話がそれるかもしれませんけど、昔の文書は「紙」で保管されていました。紙だとどうしても物理的な保管スペースが必要なわけで、毎日膨大に発生する紙の全部はとても保存できない。

それで文書の重要度に応じて5年とか10年とかの保存期限が定められてそれを過ぎたら廃棄していいということになってきたのだと思うのですが、今これ だけその電子データの保存に対する容量が増えてきて、もう世間でもビッグデータとかとんでもない情報量が流通しているわけです。それだけの情報が保存できる技術が普及しているにもかかわらず、廃棄の期間は依然として5 年とか10年で、電子化すればもっと大量のデータを長く残せるのではないですか。ここを見直そうという動きはないのでしょうか。

【出口】国の省庁レベルでも半分は電子化されていますから多分これから電子データが増えていくのではと思います。そうなると電子データの保存をどういうふうにするのかという議論がありますけど、詳しい人の話では、実は電子データだと、たとえば今はもうフロッピーディスクが使われていないとか、媒体が変わっていくにつれてデータの引き継ぎや保管が難しいというのを聞いたことがあります。これは視察に行った自治体で聞いた話ですが、歴史的文書として保存する価値があると認められたものは電子データから敢えて紙に打ち出して保管するという話がありました。

【柳楽】電子データで保存していても、将来にわたってずっとその保存形式のデータを読みに行けるかというと必ずしもそうではないと。

【出口】電子データの保存方法は考えなければならないでしょうね。あと、紙の保管スペースとの関係では、今まで国の公文書館というのは諸外国に比べて小さかった。最近原案が出てきた国立の公文書館の改築の話で、かなり大きくなって保管スペースも増えますし、公文書館のこれからの機能はすごく期待されているところだと思います。



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