弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

「ビジネスと人権」を日本の成長戦略に
~日本企業にフィットしたスタンダード作りを~(6/6)

弁護士業界は何をすべきか

【柳楽】それでは、われわれ弁護士業界は何をするべきでしょうか。

【三村】デュー・ディリジェンスは弁護士の得意分野だと思います。弁政連ニュースの前号で国際仲裁が取り上げられていましたのでその話を例に出しますと、シンガポールでは1991年に国際仲裁センターを開設し、2009年にはマックスウェル・チェンバースという仲裁専用のビルを建てて、国際仲裁を呼び込みました。その後は、アジアの国際仲裁の多くがシンガポールで行われるようになりました。国際仲裁を行うということになると、双方当事者が合わせてだいたい50人くらいが一ヶ月ぐらいシンガポールに滞在しなければならなくなる。これはシンガポールにとっては大きなビジネスになります。今回のテーマである「ビジネスと人権」の課題も、単にコストと考えるのではなくて、ビジネス・オポチュニティと考えることもできます。特にこの分野は法律家が得意とする分野ですので、ぜひ法律家としてビジネスをリードするぐらいの発想で取り組んでいただければと思います。

【高橋】国別行動計画策定の前提としては、まず現状認識、今の法律や実務が本当にビジネスと人権の問題についてちゃんと対応できるだけの仕組みや実務になっているのかをチェックすることが非常に重要なのですが、これを上手くチェックできるのは実務に携わっている弁護士なのではないかと思います。その意味で、現状評価のための叩き台を作る上で弁護士ができることは多いと思います。企業のデュー・ディリジェンスをサポートする役割も非常に重要ですけど、もっと重要なのは、万が一人権侵害が起こった場合、どうやって救済を図るか、救済へのアクセスが非常に重大な論点となっていまして、その中でも弁護士の役割が非常に強く期待されています。企業が苦情を適切に処理するメカニズムをサポートする、中立的な立場で仲裁・調停を促進する役割を担えるのは弁護士なのではないかと。加えて、これまで日弁連の先輩弁護士の方々が公害、消費者被害、原発被害などに関し取り組んできたように被害者の方に寄り添って救済を実現していく。これを国内の問題だけではなく海外の被害者の方のサポートにも拡げていく。そのためのネットワークをどのように作っていくのか、人権の救済をサポートしていく上で弁護士が果たせる役割も極めて大きいと思っています。

【田瀬】いまパラダイムが変わろうとしているので、法令を遵守するだけでは不足だということです。多くの弁護士の方が実際のプロジェクトの中で各国の法令を遵守していけるかどうか、既存の法に照らした作業をされているのではなかと思うのですが、それに意味がなくなってしまうという話を僕らはしています。そうした意味からは、日常の業務から一歩抜け出たところで、次の明日のルールを考えるところまで考えていただくというのが、実務家の皆さんへの私からのリクエストです。もう一つは高橋さんが仰ったように、救済の方法、ルールができていなくて、逆手に取る人たちがいる。救済に関しては何が正義でどういうことが理想なのかということがきちんと議論できていない。まさにこれは法律家の方々が一番活躍できるところなのではないかと思います。

【柳楽】本日は大変刺激的なお話をありがとうございました。


於霞が関弁護士会館



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