弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

日弁連の国際戦略 Ⅱ
国際司法支援、国際人権への取組(5/5)

人材の育成

【伊藤】これまで国際司法支援と国際人権の様々な取組みについて伺ってきましたが、そのような取組みの担い手となる法曹、弁護士をどのように養成していくかということについて、ご紹介いただけますか。

【磯井】法整備支援は、本格的に始まったのが90年代半ばで、最近まであまり知られておらず、人材確保にも結構苦労していました。最近は日弁連や法務省、大学、JICAでも広報や研修をして、だいぶ知られていると思います。

特に弁護士の場合、中堅世代が国内の自分のお客さんとの関係を一時中断して途上国に赴任するのは、事務所の形態等によって難しい面もあります。準備期間を長くとって頂けるようなど、JICAの側でも工夫が必要と考えています。

【外山】日弁連では、不定期に、次世代の国際司法支援活動を担う弁護士を養成するための連続研修をやっております。マンパワーの問題で毎年できていないのですが、2年か3年に一度はやりたいと思っています。

JICAの方でも能力強化研修というタイトルで毎年夏に一週間程度集中的にやっています。そういう国内で業務を続けながらでも受けられる研修メニューは整ってきたのかなという気はします。

また、法科大学院でも国際司法支援整備に関わる授業が行われています。

【大村】他の国ではなく日本が関わる意味は、国際社会における基準設定の局面にありますし、法律を起草する場面でも大きくあります。

例えば、私がILOの国際労働基準局で働いていた時に、キルギス共和国の労働法について、同国の労働省の人と協議することがありました。私は、ILOの基本条約の一つとされる雇用差別に関する条約(111号条約)の担当でしたが、キルギス共和国の労働法は3歳未満の子を持つ女性の深夜労働を制約しています。ヨーロッパ出身の同僚が、これは女性のみに制約を課す点で111号条約違反であり直さなければならないと話すと、労働省の人達の表情がさっと変わり、もっぱら反感の情が見られました。それは、「国際」的な基準といっても、やはりアジアの観点からすればヨーロッパ主導で作られたともみられる基準に、その国固有の実情を顧みずになぜ合わせないといけないのか、という反感だと推測されます。私が、日本も労働法で女性の深夜労働を禁止していた過去があるけれども、育児等は男女で負担するべく法改正されて現在に至っていることを説明すると、アジアで法改正された事実を親近感と共に受け止めてもらうことができ、その場の緊張した空気も解消したように感じました。

このように国、地域の多様性の観点からも貢献できますし、さまざまな国から影響を受けて法律を起草し、法改正をしてきた日本の経験は生きると思います。若手には、日本ならではの貢献を考えながら、活躍していってほしいです。

政治に期待したいこと

【伊藤】最後に、これから政治に期待していきたいことについてお話しください。

【磯井】たくさんありますが、一つはこれまで20年ぐらい現場では本当に相手国の発展を考えて支援をしてきました。ところが、最近、特に民事分野の法整備では日本企業の外国投資の環境整備ということが強調されつつあるように思います。そのことは、相手国の発展や国益とも合致するのですが、これまで特定の利害や価値観を押し付けない支援をやってきたことで、他国と比べても相手の国から深く信頼されているということがありますので、私はあえてそれを強調したいですね。近視眼的な経済的な国益だけではなくて、これまでの支援のあり方が長い目で見て大きな国益になっていることは、現場の声として伝えたいです。

JICAは、独立行政法人で外務省の管轄下にあるので、政策の議論でも表に出ることは少なく、職員も一歩引いているところがありますが、途上国の現場のことはよく知っているので、伝えていくべきだと思っています。

また、アジアの国々もだんだん発展してきていて、必ずしもODAの援助だけではない途上国との交流の枠組みを考えていくべきと思います。これだけ実績を積んで、組織対組織でも人対人でも関係がありますが、一方で、援助はいずれ終わることが目的ですし、JICAの援助として案件を続けるのは難しい場合もあります。今後の関係の発展、交流の部分は、個々の省庁や組織ではなく、日本全体で考えて行くべきことだと思っており、政治家の先生方には良い仕組みを議論していただければと思います。

【外山】国際司法支援の意義をぜひ知っていただきたいことに尽きると思います。少し大上段に構えた言い方になりますが、法の支配を途上国に根付かせることはわが国にとって最大の安全保障なのではと思います。もし東南アジアのすべての国々が法の支配の価値を共有できるようになれば、それも日本由来のものであるとなれば、わが国にとって、またアジア地域にとって、これ以上の安全保障体制はないと思えます。ぜひそういう面をもって法整備支援、国際司法支援をご理解いただきたいですし、また、形や規模は変わるかもしれませんが、ずっと継続して支援していくべきものだと思います。

【大村】私は、日弁連国際人権問題委員会の役割は、国内の議論と国際社会の議論を結びつけることと思っているのですが、その立場から議員の方々に期待するのは、国際社会でどのような議論がなされているのか、まず耳を傾けていただくことです。日本で抱えている課題は、他の国でも同じように悩んでいるのがわかります。日本に対して勧告がなされるのは、課題を解決に近づけるための方策を国際社会が一緒に考えて提案してくれているのだと思いますので、それに呼応していただきたいと思います。

当委員会の活動の中で政府と対話をすると、アクションが必要な事柄について、行政府は、「国民的議論に委ねます」という答弁が自然と多くなります。国民的議論をリードするのは、まさに国会であり、議員たちの役割だと思います。人権外交や法の支配を掲げることは重要ですが、自国の法制度やその運用が国際社会でどう受け止められているのかを知ることは、人権外交の第一歩だと思っております。

於霞が関弁護士会館

(2017年4月20日 於霞が関弁護士会館)



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