弁政連ニュース
特集〈座談会〉
弁護士による中小企業支援
-現状と課題-(2/5)
-現状と課題-(2/5)
創業期における支援
【伊藤】それぞれの段階ごとに、詳しく伺いたいと思います。まず、創業期における支援をご紹介いただけますか。
【八掛】創業期は、設立登記など手続が中心となりますし、起業家は目の前にあるビジネスに頭がいっぱいで、なかなかリーガルな面まで考えが及ばないかもしれません。しかし、創業期においても法律的なことはとても大事で、様々な分野で弁護士が支援することができます。
そもそも法人格を取得するかどうか、取得するにしても具体的にどのような組織にするかで、その後のリスクが違ってまいります。ビジネスの適法性という問題もあります。業態によって各種業法がありますし、個々のビジネスモデルにおいても特定商取引法その他の消費者保護関連法などの規制を受けます。広告をするにあたって景品表示法が問題になることもあります。
創業者は、新しいビジネスを成功させるために、誰もやっていないことをやろうとすることがありますが、実は誰もやっていないということは違法だったというような落とし穴もあります。それに気づかずに新しいビジネスを始めてしまうと、非常にリスクの高い事態になってしまいます。新しいビジネスモデルを展開するにあたって、弁護士が各種法律に反していないかをチェックすることが大事です。
また、不利な契約締結の回避、出資や業務提携におけるアドバイス、労務コンプライアンスのチェックは、事業がまわりだしてからも問題になりますが、創業期には、経験が浅い、知識がない、人脈がない、経営基盤がしっかりしていないということで問題となりやすく、一旦問題が起こると致命傷になってしまう可能性があります。逆に、その辺りを創業期にきちんとしておくと、後々アドバンテージになることがあります。
今自分がやっていることが法的問題を抱えていると気がつかずに後で問題となることも多いので、困った時だけではなくて、経営を始める段階では、弁護士のアドバイスを受けて、リスクの少ない経営を行うことが大切です。
経営安定期における支援
【伊藤】次に企業の経営安定期における支援につい てご紹介いただけますか。
【土森】まず「取引対応のチェック」では、普段何気なく取引している中で、下請法、独占禁止法、特定商取引法など実は守らなければならない法律があったのに知らなかったということがよくあります。最近ネットを使った様々な形態のビジネスが出てきていますが、消費者向けのビジネスでは、消費者保護法や特定商取引法が重要になります。
また取引の契約について、中小企業は大企業から提示された内容をそのまま飲むしかないと思っていることがよくあります。しかし、弁護士が内容をチェックして、どういうリスクがあるか、そのリスクを回避するためにどこを修正してもらうといいかをアドバイスして、それができることもあります。また、契約の修正ができなかったとしても、リスクを把握した上で契約すれば対策ができますので、弁護士によるアドバイスは重要です。
最近は様々なビジネス形態が出てきましたが、具体的な内容を契約書に落とし込んでいく中で、自分のビジネスのリスクを把握できるのは重要です。弁護士が、その契約書を作成ないしチェックする中で、「このやり方だと相手が販売先から代金回収できない場合に貴社にお金が入らないですが大丈夫ですか」などとリスクを指摘すると、問題に気づいて回避できることはよくあります。弁護士は紛争をたくさん見ているので、紛争になりやすいところを理解した上で、メリハリをつけてアドバイスすることができます。
弁護士は法的に突き詰めれば、最終的にどうなるかが見えているので、適切な落としどころがわかります。それは他の士業にはなかなかできないことです。また、話し合いの中で、ゼロか100かではなく、受け入れ可能なオプションを提案していくのも重要な役割だと思います。
次に「株主総会対応」ですが、中小企業の場合、株主総会を開催していないことも多いのが実情です。しかし、会社法の規定どおりに株主総会を開催していないと、経営権を巡る争いが生じた場合に大きな問題になることがあります。弁護士は、株主総会を適法に簡略化する方法をアドバイスしたり、最低限守るべきポイントを示すなどその中小企業の実情に配慮したアドバイスもできます。
次に「顧問弁護士として経営者のよき相談相手」ですが、弁護士は様々な中小企業を見ていますし、様々な士業とも接点があります。こんな考え方もありますよとか、その問題はここに聞くといいですよとか、顧問弁護士がコンシェルジュのような役割をして中小企業の経営者に寄り添っていくことが、安定期には重要になってくると思います。
【髙井】中小企業は、何が法律問題なのかがわからなくて、わかった時には紛争が生じて裁判になったりするのですが、その前に相談していただくと、弁護士にはどこに問題が潜んでいるのかがわかることがありますので、弁護士との接点をいかにつくるかが課題だと思います。ただ、弁護士に一回相談するだけでは、何を相談したらいいのかわかりにくいし、弁護士も会社にどこまで説明すればいいのかわかりづらいことがあります。そこで、例えば、弁護士との顧問契約を試しに1 年くらいやって、経営者が相談の仕方がわかってきたときにいい関係ができていればそのまま続けて、それが難しければ他の弁護士に変えるという選択もあると思います。
【土森】大企業であれば、単に法に違反しているかだけではなく、ビジネスリスクをいかに減らすかを法的な側面からも戦略的に考えています。それに対して、中小企業の場合は、弁護士を裁判の時しか使わないことが多いのですが、弁護士との顧問契約があって相談の敷居が低くなれば、もっと戦略的なアドバイスができると思います。

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