弁政連ニュース

〈座談会〉

我が国の「司法」を支える人材を
法曹養成制度改革推進会議の取りまとめを受けて(4/4)

司会 柳楽 久司 広報委員会副委員長

あるべき法曹養成制度の全体像とは

【柳楽氏】そういった幅柳楽氏広い分野で法曹が活躍して司法というのを支えていき、外に出ていく。そういった法曹を生み出していくためにはどういった養成制度が必要なのでしょうか。あるべき法曹養成制度の全体像というのを描いていきたいのですけど、有為な人材を法曹界に呼び込むためにはどういう制度の条件を整えるべきなんでしょうか。

【丸島氏】法科大学院という学術的環境の下で法曹となるための専門的な教育を受け、そこで一生懸命に学ぶことを通じて法曹としての資質を身につける。地方在住者や社会人も、地方や夜間の法科大学院教育の充実、ICT技術の本格活用による教育の充実により、学修の機会を十分に得られる。法科大学院の入学・進級・修了認定は厳格に行い、法科大学院に入学し修了した多くの者がその学修の到達点を確認する司法試験に修了後速やかに合格する。さらに実務の現場での修習、トレーニングを経て法曹となり、裁判業務はもちろんのこと、企業や公益活動の分野、国際分野など様々な分野で法曹としての資質を生かして活躍し、国民の権利・自由を擁護し社会に貢献する。法曹養成課程を通じて、奨学金制度等の充実や修習期間中の給費の支給を含め経済的負担の軽減を進める。司法試験に速やかに合格することのほか時間的負担を可能な限り軽減する。このような法曹養成課程の仕組みが十分に機能することが、志を持った有為の人材を法曹界に迎え入れる上で、さらに社会全体の専門人材を確保する上で大切なことなのだろうと思います。

【柳楽氏】法科大学院に加えて司法修習という形になっているわけですが、どっちかだけではだめなのですか。

【水地氏】私は法科大学院という組織である必要があるのかは別として、少なくとも法律学の理論を学ぶことと実務修習を経ることはいずれも必要性が高いと思いますが、現実的に考えた場合に我々が行う実務というのは市民、国民、国なりの権利義務に関する極めてセンシティブな部分に具体的に接していくことなので、そういう意味では一定の資格を得た人でないとなかなか現場に入っていくのは難しいと思います。そういう意味で司法試験に受かってからの実務修習は必要だと思います。その前の教育がどういう形で行えばいいのかということになりますけど、少なくとも法科大学院前の法学部の勉強と司法試験は全然違うよと言っていた世代からすると、実務家や研究者教員も実務という視点を持ちながら教育してもらえるのは、とても有意義だと思います。従来は、適切な教育を受けられれば有為な法曹になったであろうに法曹への道を断念した方々が少なからず居るであろうと言うことは、それは国家的にはものすごい損失だと思います。逆に試験には合格したが実は法曹としての適格があるのかということも制度を変える時に議論になったと思うのです。そういう意味で考えると、まだ上手くいっていないところもありますけど、法科大学院という制度で学ぶことができ、かつ修習もできるというのはきわめて充実した制度だと思います。

【柳楽氏】今回の決定でも「法科大学院を中核とする法制養成制度」という言い方が出てきているのですけど、弁護士業界の中でも法科大学院はダメだという意見が結構あると思います。それでも法科大学院を中核に据えるというのはなぜなんでしょうか。

【丸島氏】法曹という高度専門職人材を養成するためには、学術的環境の下で、理論と実務を架橋した専門的教育を行うことが必要だということだろうと思います。その教育のためには、ロースクールの形態もあるでしょうし、ドイツのように、弁護士養成に力を入れる上で法学部の中に法曹養成コースを設けるという考え方もあるでしょう。日本の場合には、法学部に法曹養成コースを作るといっても、旧来の法学部の枠組みの中で新たな法曹養成教育を行うというのは困難があったのだろうと思います。そこで、法科大学院という形で切り出して、法学部に限らず広く他の分野からも法曹志望者を受け入れ、プロフェッショナルスクールとして研究者・実務家を含む教員体制を整えて新たな教育形態を追求するとして制度設計がされた経過です。法科大学院教育は理論と実務の架橋といいますが、理論は実務の変革を促し、実務は理論を鍛えるという関係の中から、変革型の専門家養成課程が想定されていました。このような教育課程は、国際的な潮流としても広がっています。かつては、法曹志望者の多くは、大学とは別のところで、つまり予備校に依拠しまた自学自習で長期間司法試験のため一定の実定法科目の勉強に没頭し、受験回数は5回、6回、平均年齢28~29歳で合格するという姿でした。法曹志望者の多くは自らの負担と責任において受験のための勉強に長期にわたり集中し、その中の少数の者が法曹資格を取得していくのですが、大学の課程で法曹となるための専門的な教育課程は存在していません。新しい時代に法曹が幅広い分野で必要な役割を果たしていこうというときに、法曹となるための大学の専門教育課程を経ないまま、個人の負担と努力に委ねるという、国にとっては大変安上がりの制度であったわけです。ただし、法科大学院制度の導入に当たり、日本では、法学部や司法修習をどうするのか、法学部、法科大学院、司法試験、司法修習という相互の連携関係が必ずしも十分に煮詰まらないままに、いわば接ぎ木のように制度が生まれ、法曹養成課程が、何段階もから成る構成となっています。その点では、新たな制度は、ある意味では未だ生成期としての苦しみを経ています。制度の基本は、法科大学院教育を充実させ、これと連携する司法修習は、法曹資格取得後に法曹の活動する現場における実務トレーニングの場として、より一層純化していくことになるのだろうと思います。

【柳楽氏】志願者を呼び戻すためには職業選択の自由の1つとして法曹を選ぶかどうかという視点が必要だと思います。当然その職業に就くまでの時間的な経済的なコストの面と、就いた後のリターンの面を天秤にかけて考えるわけですよ。社会人の経験者が志望者の中で顕著に減っているじゃないですか。それは端的に、コストの面なのではないですか。

【大貫氏】今の点は、ポイントを衝いていると思います。例えば、社会人の中にはロースクールに行って、自分はどうしても法律家になりたいんだという人がいるわけです。その人はどんな制度になっても法曹界に来るのです。問題は、優秀でかつプラグマティックに考えるキャパのある人が、ロースクールに行くことを考えている、でも司法試験の合格率が2割3割で、それで合格後に法曹になるとして、弁護士は新聞や雑誌記事で明るくない分野だという情報が流されている。そうするとそれだけの時間と金を掛けてなってもそんなにリターンもないとなると、我々がどれだけこれは良いものだと打ち出してもそっちに目がいかない。それをどのように克服するのか。例えば先ほども言ったようにロースクールに入ったら司法試験に7 割は合格するという制度を目指す。これは受験生にアピールするポイントだと私は思う。じゃあ7 割うかりました。それで法曹実務家になった時にそれだけの苦労が報われる環境が整備されているという風に思ってもらえるようにするにはどうしたらいいのかというのは我々が当事者と考えなければならないし、我々が発信していかなければならないと思います。

【柳楽氏】これまでずっと「弁護士の職業的魅力を取り戻すのは日弁連の役割」と言われているように感じていたわけですね。今回の決定では、これは国の施策のレベルで考えなければならないので関係機関、関係省庁が共同してやりましょうよと言っている。日弁連だけではなく、各省庁のバックアップとか欲しいのですけど、具体的に法務省や、文科省は何をするのですか。

【丸島氏】制度改革の取組と共に、弁護士の社会的な役割や活動の魅力などを積極的に社会に発信していかなければならないという問題意識が最近様々な場で指摘されています。日弁連は、法曹三者、法科大学院協会と協力して、全国各地で法学部生を初め色々な方々を対象に、弁護士になろう、法曹になろうというキャラバンに取り組んでいます。また、文科省は、法科大学院を経て各分野で活躍している法曹の姿を積極的に発信していきたいと考えているようです。もとより、弁護士の後継者の確保と養成に向けた活動は、何よりも日弁連が今後とも率先して取り組んでいかなければならない課題だろうと思います。

【水地氏】発信という面ではそうなのかもしれませんけど、一番最初に柳楽さんがそもそも津々浦々まで司法の光をというコンセプトは変わっていないのかとご質問されましたけど、それが本当に国として変わっていないのならば、少なくとも各省庁が法曹をどんどん採用すればいいわけです。ところがなかなかそうなっていない。本当にいろんなところでこの資格をもってこういう風な仕事ができるとか、そういうことを何とか伝えていかなければならないということだと思います。何か弁護士が入ると面倒くさくなりそうというのではなくて、法律家が入ると、もめごとがギリギリまで行かずに解決するというようなことが、自然な感覚として多くの方々に受

国会議員の先生方へのメッセージ

【柳楽氏】最後に、国会議員の方に向けて、この問題についてのメッセージをお願いしたいと思います。

【大貫氏】弁護士の活動領域拡大に関して述べますと、例えば海外でいうと中小企業が海外に出ていって日本のプレゼンスを高める、国、自治体においても色々な政策に弁護士が関与してやっていくということを目指しています。中小企業の海外展開の支援にはお金がかかるのです。弁護士がボランティアでやれというのは、長続きしない。国、自治体の方も弁護士を関与させる場合予算が必要な部分も出てくる。そういった分野に、弁護士を付けることによって色々な制度が有効に機能する、あるいは各ユーザーが、メリットを受けることができるようにするためにユーザー側に援助を提供する、という発想で考えていただきたいですね。

【水地氏】やっぱり修習の分野で、司法試験に合格した後にも関わらず経済的に何も保証されていないことが、現実に多くの有為な人たちがこの世界に入ってこようという気持ちを妨げているところは明らかです。それは解決するためにすごく大きなことが必要となるわけではなく、その人たちが本当にきちんとした資格を得て、国の中で働いていくことを考えれば、そこに国費を投ずることに国民の理解は得られると思います。法曹志望者に対する経済的な支援の充実は必須のものであって、それをしないで志望者が減っていくというのはこの国全体としてマイナスだと思いますので、政治家の方にはそこのところを本当にお考えいただいて具体化していただきたいと思います。

【丸島氏】国会議員の皆様は、幅広い視点から国内外の情勢をとらえ、今後のわが国の進むべき道について深く考えられる立場におられます。とりわけ、国民の権利・自由を擁護し、「法の支配」を社会の至るところに徹底するということは、国際的に共通の価値観となっており、わが国もまたこうした理念を尊重していくということは、政府首脳も様々な機会に繰り返し述べておられます。わが国において「法の支配」の理念の具体化を図るには、かつてのような統治のための法という観念から脱して、国民が、まさに権利の主体、統治の主体として、法を道具として用い社会経済関係を形成し、フェアな社会を築いていくという観点が一層大切になっていると思います。最近の諸外国の動向を見ますと、わが国も、個人や企業の活動を法的な側面からサポートする法曹を国の戦略としてもきちっと育成していく中長期ビジョンを持たなければならないと思います。経済産業省はわが国の経済発展の戦略の中で法曹をどのように活用していくか、外務省は国際法務の戦略をどう考えるか、厚生労働省は、わが国の労働環境や福祉の充実のために、総務省は地方分権の実質化を図るために全国の自治体でどのように法曹を活用するのかなど。政府の総合的な施策として法曹人材の育成と活用を考えることが社会的にも国際的にも大切な時代になっているのではないでしょうか。資源の乏しいわが国では、人材とりわけ専門人材の養成と確保は極めて大事だと思います。地方の重視という観点からは、法科大学院の統廃合により学校数を絞られる一方で、地方法科大学院の充実の課題をどうするのか。ICTつまり情報通信技術を活用するなどの試みがされようとしています。いずれにしても、これらの人材養成には、奨学金の拡充とも合わせて、仕組みや財政措置の整備充実を図る必要があります。また法曹養成制度改革は、先ほどの指摘の通り、司法アクセスや活動領域拡大の課題と深く関わります。これらの改革課題については、司法制度改革審議会意見書が強調した通り、わが国の今後のあり方に関わる重要な課題として、必要な財政措置について特段の配慮がされるべきであろうと思います。あらゆる分野で人々の暮らしや経済活動のため法曹が活躍し貢献する社会、国民の権利自由が十分に保障される社会の実現という観点から、そのような方向に向けた環境整備のために、是非ともご尽力を頂きたいと思います。そのことは、日本をより明るく活性化し、フェアな国にしていくための力となるだろうと思います。

【柳楽氏】本日はありがとうございました。

於霞が関弁護士会館

(平成27年8月7日 於霞ヶ関弁護士会館)


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