弁政連ニュース
〈座談会〉
我が国の「司法」を支える人材を
法曹養成制度改革推進会議の取りまとめを受けて(3/4)
法曹養成制度改革推進会議の取りまとめを受けて(3/4)
司会 柳楽 久司 広報委員会副委員長
今後に残された課題
【柳楽氏】今回の決定でも随所にこれから検討するというような記載があって、5 年もやってまだ検討するのかと思うところがあるのですけど、今後に残された課題についてお話しいただければと思います。
【丸島氏】新たな法曹養成制度は、発足の当初、社会人や非法学部生を含む多くの人が、期待を寄せ、法科大学院に入学しました。しかし、制度創設時の想定と異なる司法試験の合格状況のばらつきや修習終了後の就職状況の厳しさ、その一方で、経済的・時間的負担の大きさなどが要因となり、法曹志望者が年々減少してきました。推進会議決定は、今後3年間の集中改革期間を設定し、これらの諸要因を可能な限り解消するべく、制度の安定と再生を目指すものとされています。しかし、大切なことは、そこで取りまとめられた施策が、どのように具体化され実行に移されるかであり、その点が大きな課題です。決定は、法曹人口のあり方について、当面1,500人程度の司法試験合格者が輩出されるよう、法曹養成制度の改革や、活動領域の拡大、司法アクセスの容易化等に必要な取組を進め、多くの有為な人材が法曹を目指し社会の様々な分野で活躍する状況となることを目指すべきだとしています。また、合格者数の規模は、質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないともしています。単純に合格者数の数値目標を掲げて事足れりとするのではなく、質の確保を前提に、この社会において、有為の人材が法曹となり人々のために活躍する状況を作り出すための諸施策をとることが法曹人口問題の核心であるとするものです。この点は大事なところです。そのためには、司法アクセスや民事司法制度を初め、未だ十分でない制度的基盤の整備・充実や、法曹の活動領域拡大に向けた環境整備などが必要であることは言うまでもありません。法曹養成制度の改革は、法科大学院の規模の適正化、教育の質の向上を図ること、それらを通じて各法科大学院の修了生の70%以上が司法試験に合格するよう豊かな質の人材確保と教育内容の充実を実現すること。奨学金制度の拡充などの経済的支援の充実を図ること。地方在住者や社会人のために地方法科大学院の充実やICT(情報通信技術)を活用した法科大学院教育の実践を進めること。予備試験は経済的困難や社会人であるため法科大学院を経由しない者のためのルートであるとの制度趣旨に沿った運用を行うことなど、今後の法曹養成制度改革の方向は明らかにされており、これらのための有効な施策の実施こそが問われています。
【柳楽氏】修習関係での残された課題は?
【水地氏】先ほども申しましたが、修習の内容等については今回の推進会議では検討すべきとされていませんでした。法科大学院を卒業して司法試験を受け、合格したら修習に入るという流れで、一番最短で受かった人も3月に法科大学院を修了し、5月に試験を受けて修習が始まるのが12月ということで、少なくとも8ヶ月のブランクが生じます。また、修習のやり方についても、現状では2つのグループに分けられていまして、司法研修所での導入修習の後、各実務修習地で分野別の修習と選択型修習を済ませた上で、集合修習を受けて試験を受けるというグループと、集合修習の後でもう一度各地に散って選択型修習を受けてから試験を受けるというグループがあります。その辺りについて本当にこれがベストの修習のやりかたなのだろうかということについては、どこかできちんと議論して、新しく法曹になろうとする人たちが経済的なことはもちろんですけど、時間的にもスムーズに進めていけるよう考えていくことが必要だと思います。法曹以外の分野か法曹の分野かを選ぼうとする人たちに法曹の道を志望していただくためには、大きな枠組みでの改革をしていかないと。修習の方法についてどこでも均一に修習ができますとか、選択型としてこれだけのメニューを用意しましたとかそれだけではあまり変わらないと思っているところです。もちろん経済的な支援として、法科大学院でお金をかけて勉強してきた人たちが司法試験に受かった後でまた貸与制であることがこの世界に入ってこようと思うことについて負担になっているのは明らかなので、本当に早急に方向性を出していかないと、間に合わないということになると思います。
【柳楽氏】今回の決定には法曹人口に関するくだりで、「今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指す」ということが書いてあります。活動領域が広がってそこで多くの弁護士が活躍できる社会的な素地ができれば、法曹の道を志す人も増えるだろうと。そういう意味で、活動領域の話が一番前に書いてあると思うのですが、そこの活動領域を広げるというのはなかなか制度的にどうこうと難しいかもしれません。決定本文や分科会の取りまとめを読んで、私なんかは「こんなことは既にやってるよ」と思う部分もかなりあったのですが、具体的にこれから何をすればいいのでしょうか。
【大貫氏】活動領域に関して今後の課題として残っているところを言うと、要するにユーザーですよね。例えば自治体や企業や海外に展開したい中小企業。そういうユーザーに弁護士の有用性を認識してもらうこと。認識してもらうために弁護士側としてはそういった能力を身に付けるのと、情報発信をしていくこと。これは関係各機関も協力してやっていく必要がある。何が一番プラスに変わったかというと、個々の弁護士とかあるいは弁護士会の委員会がではなくて、国としてそういった活動領域の拡大をバックアップしようという点です。国、地方自治体、企業、海外展開。これはこの3つの分野を設定したのは意味があるなと思っているのです。これまでは個々の弁護士、弁護士会が各分野で頑張ってきたのですけど、こういった分野で活躍するためには、日弁連として制度面でも考え方の面でも変えていかないとなかなか下支えができないということで、そういう動きも出てきた。あるいは国なりのサポートがないと海外展開や、国、地方自治体の分野ではなかなか活動が広がっていかないのではと認識できた。実際に例えば、法務省、外務省が海外展開の分野においては具体的な政策もやってきた。ただ、この3つの分野だけで、増加する弁護士の人数を吸収することを期待するのは難しいでしょう。これらはあくまでも特徴的な3つを取り上げたものであって、この3つ以外の、一般の弁護士業務をどれだけ深堀りしてそれぞれの弁護士が頑張っていくのか。ここを忘れてはいけない。個々の弁護士の工夫あるいは法律事務所の工夫、そういった工夫をバックアップする体制、そういった合わせ技をやらないとなかなか活動領域は広がっていかないでしょう。
【柳楽氏】弁護士業務として古典的な訴訟業務があります。これを中心にしている弁護士がまだ大多数だと思いますけども、その訴訟業務の点でいうと、弁護士の数がこれだけ増えたのに、訴訟の数が増えていません。本来であれば裁判所とか紛争解決機関で解決されるべき話がどうもそこに持ち込まれない。司法アクセスの問題だと思うのですけど、それは制度的に何とかしなければならない問題なのではないですか。弁護士費用保険もその一環だと思いますけど。
【丸島氏】司法アクセスや民事司法制度改革の問題は、法曹養成制度との関連でも当初からの課題でありました。司法制度改革審議会は、法曹人口だけを切り離して議論するのではなく、制度的基盤・人的基盤・国民的基盤などを一体として論じ、改革を進めようというスタンスに立ちました。国民が司法をよりよく利用でき、法曹による法的支援を得られる社会にするとの改革論議である以上、司法制度全体を利用しやすく国民の権利自由を擁護するために機能するよう必要な施策、すなわち司法の制度的基盤や司法アクセスの課題などをそのままにして、法曹の数や教育という枠内だけの議論では、出口のない議論に陥りかねません。今回の決定では、活動領域拡大や司法アクセスの容易化等に必要な取組を進めるとされていますが、裁判所へのアクセス、民事訴訟制度や行政訴訟制度の改革などの課題も含めて深堀りしていかなければならないと思います。
そもそも何のための司法改革か
【柳楽氏】今回の決定の冒頭のところに「法曹志望者の減少」という事態を「真摯に受け止め、法曹志望者を回復させ、新たな時代に対応した質の高い法曹を多数輩出していくため」に「現状認識を共有し、必要な協力を行うことを期待する」と書いてあります。そもそも何でこのような議論が必要なのかということを、分かりやすく説明していただきたいのですが。
【水地氏】法曹志望者が減っても本当に国民にとって必要でないものであれば別に構わないんですけれど、やはり司法というのはこの国においてもっといろんなところに役立つ必要があって、個々の人権が守られ、もめごとについては正しい合理的な結論にいくためにはこの職業が重要であろうと思います。そうすると、多くの人たちが希望して法曹になっていく、それが必ず国民のために役立つのだと、そのために、この問題をなんとかしようとしてみんなで様々議論して頑張っているのだということです。
【柳楽氏】そもそも司法制度改革のあの当時のグランドデザインとしては、この国の司法を強くするのだ、そのためには司法を支える人の充実が必要であると。それで、法曹養成制度の整備状況等を見定めながら毎年3,000人を目指すと言って、数を増やした。しかしその結果、今のような状態になって法曹の道を目指す人が逆に減ってしまったわけですが、当初描いていた「この国の司法を強くしたい」というグランドデザインは変わっていないという理解でいいのですよね。
【丸島氏】この15年来の司法改革の取組は、21世紀の日本が、憲法の「法の支配」の基本理念の下に社会のあり方を再構築しようとする諸改革の最後の要として位置付けられました。司法の機能強化と法曹の役割拡大を図ることを通じて、国民の権利・自由、そして社会的公正をよりよく確保するため、司法の制度的基盤の整備と共に、質量ともに豊かな法曹人材を輩出し幅広い分野で活躍する状況を生み出すことが目指されました。そして、法曹人材を養成するためには、大学という環境の下で新たに専門教育を行うプロフェッショナルスクールとして法科大学院が創設されました。こうした司法制度改革の趣旨は変わっていませんし、司法の役割は小さくてもよいという逆戻りの議論になってはいけません。改めて今日その意義や趣旨が強調されるべきであり、それとともに、現在の問題状況としっかり向きあい、現実的で着実な施策を進めなければなりません。
【水地氏】当初想定した数字が合っていたかの問題はあるとしても、現在においても日本の司法の分野の仕事というのはもっと利用されていくべきだと、少なくとも関わっている人たちは思っているし、国の政策としても考えられていくべきだと思います。
【柳楽氏】もう1つの視点として、日本という国を考える上で諸外国との関係を考えたときに、国際競争力を強くするんだという点において司法というのはどうなのですか。
【大貫氏】例えばいろんな国同士の交渉、あるいは国際的な企業間の交渉というときに、欧米あるいは東南アジアもそうですが、弁護士が前面に出てくることが多い。日本はそれが無くて、企業同士だと弁護士が出ることが多くなってはきましたが、例えば国同士の交渉で弁護士が外務省に雇われるということはほとんどなかった。もっと日本でも弁護士がそういう場面に出ていくことが、この国の外交にとって、あるいはビジネス上でもメリットになるのだと思います。さらに人権的な面では先日、林陽子さんがCEDAW(女性差別撤廃委員会)の委員長に就任されましたが、国連の中では相当重い地位なんですよ。国際社会における日本のプレゼンスを高めるにあたって、林さんの例はとても重要なのです。

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