弁政連ニュース

〈座談会〉

地方創生の柱に司法基盤の拡充を
-地方・地域の実践で政府を動かす-

(5/6)

【斎藤】弁護士が依然として地域に居ないという問題とあわせて、地元に裁判所建物があるのに裁判官が居ないという状態はどうにかならないかという声や、本庁で行っている司法手続を支部でもやってもらえないかと言う声が上がっている。その一つが労働審判ですね。

【石曾根】いま地裁のワ石曽根号事件は減っているのですが家事事件は増えています。ワ号事件ですと判決が出て強制執行を掛けても財産が回収できない。それ故、地裁は市民から頼りにされなくなっているのではないか。一方家事関係は裁判所に調停をお願いします、裁判所で何とかしてくださいよと頼りにされている。頼りがいのある裁判所にするには身近に裁判所が無ければならない、行政と弁護士会が協力し合えば、より頼りになる司法の実現に一歩近づいていくかなという感想です。

【泉】公共施設の数を削減していかざるをえない社会情勢の中で、裁判所の数をすぐに増やせるかいうと難しい面がある。弁護士が、市民と裁判所をつなぐ中間的な役割をどう果たしていくのかが重要だと思います。

【北川】地方創生時代の先の公共インフラとは何かというと、法の支配が最たるものではないか。地方自治体も建物の再配置計画が法制化されて何割か減らして機能を強化する。だから国も中々建物を新しく建てているのは難しいと思います。機能面で補う。公共施設は余っているわけですから有効活用というのは重要な問題です。公共事業として道路などを作ったわけですけど、本当に成熟した社会はソフトの面が大切なのですよ。

【泉】一般の市民からすれば、裁判所は遠い存在であり、弁護士も近いとは言い難い。その点、市役所は市民に身近な存在です。だからこそ、市役所は市民と司法との橋渡しに適しているように思います。

市役所の中に弁護士資格をもった職員を7名配置し、市役所の中に法テラスを誘致しましたが、今後は、市役所の中に公証役場も入れたいと思っています。市役所に行きさえすれば司法に繋がるというのがポイントで、まだまだ色々と工夫の余地があるように思います。

【藤田】需要があるのが大前提で、裁判所もおそらく事件が増えないと考えているようですが、実は埋もれていっているのではないかと思います。弁護士会が市民に身近な存在になってもっと地域に飛び込んでいくのが大前提と言うのは同意です。

【泉】発想の転換が弁護士に求められていると思います。弁護士の活躍の場所は、裁判所の中だけではなく、社会の隅々にあるはずです。弁護士の専門分野は、法律だけではなく、世の中そのものであってもいいはずです。そして何よりも弁護士は、市民にとって特別な存在ではなく、市民にとって身近な日常的な存在であるべきです。

同じように、司法についても、裁判所の中だけではなく、地方行政の拠点である市役所にもあるわけです。離婚の相談、子どもの貧困など、それぞれが司法へのまさに入り口です。

発想の転換こそが重要なのです。

【北川】行政をやっていますとね、市役所が現場で文句を言われるから大分変りました。法務省が圧倒的に古いんですよ。そんなものだと思っている中に弁護士さんもいらっしゃる可能性もある。

【藤田】統廃合された裁判所、独立簡裁の施設があるわけですよ。結構宝の持ち腐れで、駐車場もあるし、調停も審判も十分にできるけど活用されていない。地方、地域に行くほど土地建物は必要ない。ソフトの部分、裁判所、検察庁も我々弁護士がこんなに増えたのだから裁判官、検事もそれ相応に増やしていただいて、そのためには予算付けをしてもらう必要があります。

【斎藤】要するに、東京には様々な紛争解決のメニューが市民に提供されているのだけど、地方だと市民に身近に提供されていないという不満。それを何とか改善・改革して欲しいということですね。

【泉】予算の獲得に向けての大義も必要です。リーガル・セーフティーネット100%の実現というのはどうでしょうか。日本のどこで暮らしていても、法的な支援を十分に受けることができる社会をつくる、その環境を整備するための予算という位置づけです。

いずれにせよ、日弁連や弁政連は、もっと戦略的に動く必要があると思います。法務省や最高裁ばかりを相手するのではなく、国交省、経産省、厚労省、文科省といった事業予算に余裕のありそうな省庁も幅広く対象にしたうえで、戦略的な働きかけを強めていった方がいいように思います。

【北川】そういう立ち位置を変えたら、本当にこれが地方創生時代ですね。需要があるというだけではだめです。あるなら何故利用が増えないのだ。お前たちが駄目なんじゃないかという議論になる。

【泉】日弁連や弁政連には、実現に向けてのリアリティを持って運動をしていただきたい。タイミングを逸した意見書を漫然と国に提出するのではなく、自治体と連携して協議を重ねながら条例化を図れば、意見書の内容を具体化することも実際に可能なはずです。

それから弁護士は、選挙にもっと数多く立候補すべきです。知事でも市長でも国会議員でも地方議員でもかまいません。政治や行政に関わることは悪いことではないはずです。弁護士の使命である基本的人権の保障と社会的正義の実現、すなわち人助けと世直しは、裁判を通してだけでなく、政治や行政を通しても可能なはずです。日弁連と弁政連には、政治参加の機運を高め、その挑戦を後押しする体制をつくってもらいたいです。

【斎藤】今日のメインテーマを超えていますけど、言わんとする趣旨はわかります。


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