弁政連ニュース

特集〈座談会〉

女性の活躍で社会が変わる
~政界、経済界、弁護士会における
 男女共同参画の取組と課題~(2/5)


【市毛】 次に、現在21世紀職業財団の会長をなさっている資生堂元副社長の岩田喜美枝さんお願いします。

【岩田】 私が学生だったときは、クラスメートの男の子達には求人案内が段ボールでいくつも来ているのに、自分には一通も来ないという時代でしたので、企業で働くのは諦めました。それで公務員試験を受けたわけですが、毎年女性を採っているのは労働省だけだった。特別、労働行政をやりたかったわけではなかったのですけど。そういう経緯で1971年に労働省に入りました。労働省を退職した2003年当時は、勧奨退職というのが当たり前で、次官候補を残しつつ、次のポストを関係団体に用意した上で一人ずつ50歳位からだんだん退職勧奨していく。私にも、56歳の時に退職勧奨があって、次のポストはこれですというオファーがありました。その時ちょっと待てよ、学生時代には就職活動もろくにできなかったけれど、今なら企業で働けるのではないかと思って、その話をお断りしました。仕事を通じて知り合った経営者何人かに、採っていただけないかというお話をして、資生堂に採っていただいた。これが入社の経緯です。

会社で女性の活躍がなぜ必要かというと、その会社を強くするためだと思っています。日本でたくさんの会社をみてきましたけど、本来もっと活躍できるはずの女性たちが女性であるという理由とか子どもがいるという理由で十分活躍できていないことが多い。経営の観点からは非常にもったいない。また、多様性は企業の力になる。これは性別に限らないのですけど、多様な社員が活躍している会社の方が強いというのは直観として分かりやすい。弊社のような消費財メーカーだとそれが顕著です。消費者市場は、それを構成する人々がいろんな属性や嗜好を持っていて多様です。とすれば、自分の会社にも消費者市場を鏡に映したような多様性を持たせた方が、当然そのニーズを多くつかめる。男性だけのモノカルチャーな会社じゃなくて、いろんな人が混ざっている方が、価値観、発想、経験、知識、人脈などが多様です。そういう会社の方が変化する経営環境の中で柔軟な対応により存続することができる、また、新しい価値を商品やサービスとして提供できる。このようなことから、会社を強くし、成長させるためには、女性の活躍が必要だと思うのです。

男女雇用機会均等法ができたときの日本では、「差別をしてはいけない。男女に機会の均等を保障しなさい。」という議論だったので、企業はあまり乗ってこなかった。その後、日本の人口が減少局面に入り、それを量的に補うために女性労働力という議論になった。しかし、足元で雇用の余剰感を20年近く抱えてきた企業にとって、人口減少もやはりピンとこない。しかし最近では、女性が活躍すると企業が活性化する、成長する、経済全体が回りだすという議論になった。そういうことで企業がようやく本気になったと、そんな感じですね。

【市毛】 ダイバーシティを経営戦略と位置付けたら動き出したということですね。それでは、今年度の日弁連副会長兼大阪弁護士会会長の石田法子さんお願いします。

【石田】 38年間、弁護士をしており、134年の大阪弁護士会の歴史の中で、初めての女性会長になります。4,000人以上の会員を抱える弁護士会は東京3会と大阪の4会ですが、女性の会長職は過去、二弁にひとりだけと、まだ少ない状況です。

かくいう私も最初から会長職を志していたわけではなくて、どちらかというと会務は面倒だと思っていました。若い時から女性の問題に関心があって、弁護士になってからもそれに取り組んでいましたが、弁護士会の委員会活動はとにかく時間がとられるし、議論は難しい、こんなのついて行かれへんわと、むしろ女性の民間グループの人たちと一緒に活動していました。すごく勉強になったし楽しい活動でした。

ところが、一緒に活動していた人たちに、「私たちのような小さな民間グループの活動や意見はマスコミが取り上げることは少ないし、影響力も小さい。それに比べて弁護士会は発言力もあるし影響石田氏力もある。弁護士会でも、活動して、私たちの思いを伝えてほしい」と言われて、「ああそうなんや」と、目からうろこが落ちる思いというか、弁護士会には、そんな役割があるんだと気づいて、40歳くらいの頃から、会務を中心にやるようになりました。

大阪弁護士会でも日弁連でも、専ら人権擁護委員会で活動して、副委員長、委員長を経験してきました。平成13年度に、大阪弁護士会の副会長をしましたが、この時は非常に悩みました。初の女性副会長ということになりますので、ロールモデルもいないし、子どもは中学受験だし、大阪の場合、会長も副会長も仕事が一年間丸々できませんので、収入激減だし、と、やらない理由はいくつもあるのに、やる理由が見つからない。そんな時に、先輩の男性弁護士から、「女性というこれまでの執行部に異質なものが入ったら風通しがよくなるかもしれないから、やってみれば」と言われて、それなら意味があるかなとチャレンジしました。

私一人だけでなく、そのあとに5人の女性副会長が続いてくれたので、弁護士会の発想や行事の仕方とか、そんなのも少しずつ変わってきたと思います。先ほど岩田さんから多様性が大事だというお話がありましたけど、本当にそう思います。役員が男性ばっかりだったときは当たり前のように行われていたことが変わったり、気付かなかったことに気が付いたり、少しずつ小さなことからでも変わってきていると思います。

そこから、さらに、いろんな役職をやって現在に至るわけですが、なぜ弁護士会の会長をやろうかと思ったかというと、最初に言ったように134年の歴史がありながら、ただの一人も女性がいないのはおかしい。弁護士会は人権の擁護と社会正義の実現ということを日頃から外に向けて発信しているのに、中では男女共同参画が遅遅として進まない。私がやらなければ、あと5 年、10年くらい会長になろうという女性はいないだろう、それなら今やるしかないなという思いがありました。今、大阪弁護士会には700人以上の女性会員がおります。私が登録した時には、会員の3. 2%しか女性会員がいなかった。現在は17.7~ 8%ぐらいはいる。そういう状況なので、女性役員を期待する声が広がってきたことも非常に大きな力になりました。幸い、私が所属する大阪弁護士会の会派は、候補者に選挙費用を一切負担させないという会派ですので、経済面でも、立候補しやすかったこともあります。

女性が弁護士会の役員になる意義は、いくつかあります。さきほどの風通しの話じゃないですが、女性が意思決定機関にいることが当たり前になり、次の世代もそれに続けば、女性弁護士の働きやすい環境を作り出せる、また、社会が求める弁護士の役割という点からも、女性弁護士が果たせることは多いし、女性弁護士が求められている場所、業務の拡大という点でも、弁護士会としてそれに対してどう対処していくか考えるときには、やはり女性の役員は必要だと思います。


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