弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

被災地自治体で
活躍する法曹たち (3/3)

被災自治体に弁護士が貢献できること

【出井幹事長】皆さん入ってまだ四ヶ月ですが、今後の展望あるいは、被災自治体の中に弁護士が入ることで貢献できることについてお話いただきたいと思います。

【大岩氏】県庁の職員は皆勤勉で優秀で、最初は本当にビックリしました。ただ、前例のない新しいことをやることに慣れていない面があるように思います。外から入った人間として、そういったところで役に立てる場面があると思います。また、いわゆるトラブルの場面以外にも行政の様々な場面で法律の考え方が役に立ったり、弁護士が使えることを十分認識してもらえていないようにも思います。宮城県庁は大きな組織なので、私がひとつひとつの法律相談に乗ることも大事なのですが、法律に対する意識を底上げしたり仕組みづくりにつなげていければと思っています。

【出井幹事長】組織の中で相談に来るのを待っているだけではなくて、色々なところから課題を掘り起こしていくこともやっていきたいということですね。菊池さんどうでしょうか。

【菊池氏】私は一番やりたいことは、潜在している復興関係のニーズをもっと顕在化させて、解決にあたっていきたいと思っています。全体に通じることですけど、弁護士が活躍できる部分、弁護士が関与すれば変わりうる部分があることに気づかないうちに進んでいることもあるので、そういうニーズをまず探求したいです。あとは個々の案件を対処するばかりではなく、仕組み作りに貢献したいと思っています。また、実際に職員の方から、県職員の法務能力向上のため、法的な考え方などを伝えてほしいというような要望もあったので、そういうことも通常業務を通して醸成していければと思っています。

【岡本広報委員会副委員長】私などが申し上げるべき立場ではないのですけど、個別の業務はこれから増えていくと思います。県庁内にはまだ弁護士として採用された者が一人しかいないわけです。ただ、いつでも相談できる相手がいるということで、安心して業務に取り組んでくれたらと思っています。ところで、菊池さんも大岩さんも県の立場なわけですが、復興支援の主役である市町村との連携はどうですか。あるいは、国と自治体との関係ではどうですか。

【菊池氏】例えば、先ほど来た道路の相談は、もともとは市町村から県に来たものですね。

【岡本広報委員会副委員長】県に対して、地元の自治体から相談が来るということですか。

【菊池氏】市町村から県の所管課に来た相談が私に回ってきた形ですね。他には、用地取得の関係での相談などを私に直接頂いたことがありました。その他最前線たる市町村の支援を拡大できればと考えています。

【岡本広報委員会副委員長】国との交渉はあるのですか。

【菊池氏】これまでは特段行ったものはありませんが、具体的に私も関与して行うことが想定されるものが何件があるので、今後、機会があると思います。

【大岩氏】職員から相談を受けている中で、国に相談したところこういう解釈を示されたという話があって、それに対して、こういった別の解釈もあり得るという回答をしたことはあります。今後は、私自身が国の担当者と話すような場面も出てくると思います。

【岡本広報委員会副委員長】今までの自治体というのは、「国がこう解釈しているから、そうやります」というようなスタンスも少なからずあったと思います。お二人のような法曹有資格者の方が自治体に入って、自治体の側でも積極的に法解釈して、自分たちで新しい政策をつくり出すことが、これから重要だと思います。自治体から国に要望しなければならないこともあると思いますので、政策、立法提言の分野における活動も期待したいと思っています。

【柳楽編集長】柳楽編集長ちょっと素人っぽい質問になってしまうのですが、お二人は県庁にいらっしゃるじゃないですか。その県の下には市町村というまた違う自治体があるわけですよね。先ほどは市からの相談が県に来て、それに対応したというお話だったのですが、そういった、より住民に密着した基礎自治体に、お二人のような法曹有資格者が入っていたらどうなんだろうなと思いました。どうですか、お二人から見て弁護士がいたらいいのになとか思いますか?

【大岩氏】おっしゃるとおり、県が直接事業を行うこともありますが、特にまちづくりなどは市町村が主体になる場面が多いので、市町村に弁護士が入るのはいいことだと思います。実際に宮城県の東松島市には4月から弁護士が入っており、石巻市には5月から弁護士が入ります。自治体の弁護士同士で連携していけたらと思います。それは弁護士同士だけの連携というよりも、弁護士を通じて自治体同士のコミュニケーションにつながれば素晴らしいなと思います。

【菊池氏】市町村が一番最前線で、生活の再建に関わる業務の主要部分は市町村が行っていると思います。市町村に弁護士が入れば活躍の場は広いと思いますし、望ましいことと思います。ただ、必ずしも予算等の問題で採用に至らないことも多いと思います。私としては、自分の立場で市町村業務についても何らかの力添えができればいいなと思っていますし、また、県は、横断的な連携や情報共有の調整などをしやすい立場にあると思いますので、そういった面でも復興に関わる力添えができればいいなという状況です。

【岡本広報委員会副委員長】あの市の取組は良いな、広められないかな、という点は、県からの方がよく見えるのではないか思います。様々な政策について、横串が通せていないというのはよく言われていますが、これからの復興の道のりの中で、それに気付いていければなと思います。ですから、大岩さんがいったような「弁護士を通じて自治体同士のコミュニケーション」をとるという点に期待したいと思います。


自治体へのメッセージ

【出井幹事長】それでは最後に被災自治体へのメッセージをそれぞれいただきたいと思います。

【菊池氏】自治体と弁護士というテーマで述べますと、今、被災自治体に弁護士が入っていくというのが増えていますが、中に入ってみると法律問題というのは本当にたくさんあります。そのような中、庁舎の中に弁護士がいて、いかなる段階であってもすぐ相談できる人間がいるメリットはとても大きいという実感があります。また、現場の人も気付いていない問題があることもあるので、予防法務的な機能が発揮しやすいと思っています。また、弁護士を一人採用すれば、その弁護士が持っている弁護士としてのネットワークに加入できるといえ、他の弁護士や専門家の知見も活用することができますので、弁護士を採用することのメリットは大きいと思います。

【柳楽編集長】先ほど私も市や基礎自治体の話をしましたが、そういったところに広がってくれればいいですよね。

【菊池氏】そうですね。基礎自治体で貢献できる部分はかなり大きいのではないかと思っています。また、おそらく被災自治体の市町村で採用されたのであれば、私や大岩さんとその先生の間でいろいろな相談や連携ができるようになると思いますし、それは自治体同士の連携にもつながり得ますので、相乗効果もあると思います。現に私と大岩さんは普段結構相談をしています。

【大岩氏】各市町村に弁護士がいれば話もしやすいですし、向うも問い合わせしやすくなると思うんです。そういったネットワークが繋がればいいなと思います。それから、外から入った人間の声というのは自治体が活性化するきっかけになると思います。実際、私が新しい提案をすると、賛成してくれる職員は多いです。そういった場面でも、法律の専門家として発言、行動できる弁護士の果たす役割は大きいと思います。

【出井幹事長】今日はお二人に貴重なお話を頂きました。震災からの復興ということになると、まさに自治体の力が試されるということになると思います。その自治体の中に大岩さんが言ったように外部から人を入れることとか、特に法律的な立場で発言ができて実行できる人を入れていくというのは意義があることだと思います。今後ともぜひ法律家として活躍の場を広げていただき、復興にも力を尽くしていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

(平成25年4月25日 於仙台弁護士会館)

於仙台弁護士会館


被災自治体における法曹有資格者の採用状況

  • 2013年 1月 岩手県 総務部法務学事課
  • 2013年 1月 宮城県 総務部私学文書課
  • 2013年 4月 東松島市(宮城県)総務部総務課
  • 2013年 4月 富谷町(宮城県)総務部総務課
  • 2013年 5月 石巻市(宮城県)総務部総務課
  • 2013年 6月 相馬市(福島県)企画政策部

2013年6月15日時点で、6 名(日本弁護士連合会調べ)



▲このページのトップへ